孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
ニッと笑った海真くんに連れられて、まずはバックヤードで制服を貸してもらう。
渡されたメモとペンさえあれば、注文を聞くことができる。
それをカウンター内にいる店長さんに伝えて、ドリンクを運んで、慣れてきた頃。
「やっぱり本物よ、彼。こんなところに隠れていただなんて、才能ってすごいわよね」
「ああ。これを聴きに俺たちは来ているからな」
本物だった。
たとえ目を閉じていても、1枚の壁を挟んでいたとしても、ここまで耳に入ってくる音。
まるで情景が目に浮かぶようだった。
お客さんたちはみんなして、ひとつの歴史あるピアノに座った男の子へと一直線。
「ノクターン 第2番だ……」
やっぱりあのときは手加減していたんだね。
でもそれですら、私との腕の違いを見せつけられた。