孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
「ねえ、あなた本格的にプロを目指す気はないの?こんなところに埋もれているなんて勿体ないわよ」
「おれなんかただの趣味ですよ。趣味だからこそ楽しめるってのが趣味ですから」
「…ふうん。興味あったらここに連絡して、いつでも待ってるわ」
「どうも」
お客さんのひとりから頂いた名刺を、違うお客さんのポケットへと忍び込ませてしまった。
なんともスムーズすぎて、私以外は誰ひとりとして気づいていない。
「ごめん、前よりまた散らかってるかも。あー、洗濯もの入れなきゃ」
それからバーの営業が終わると、当たり前のように海真くんのアパートへとふたりで帰った。
私があんなにも電話で泣いていたのだから、なにかあったことくらいは察しているはずだ。
「あっ、やべ、虫入った」
「えっ…、きゃあ…!」
「ごめん、ふつーに飛んでる。コガネムシだなあれ」
「やだっ、やだあ…っ、海真くんどうにかして……!」