孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
「乃々、そんなにつまらなさそうな顔をしないで。周りに対する顔は大切って、昔から教えているでしょ」
お母さんは冷たいひとだ。
もし今、災害が起きて。
娘の私が窮地に陥っていたとしても、自分がデザインした服や財産の無事を優先させるんだろう。
シルク素材のワンピースにドレスアップされた私へと、すでに会場に来ていたお母さんの第一声はまずそれだった。
久しぶりに顔を合わせた娘に「ただいま」すらないのだ、この母親は。
「…教えられてなんか、ないよ」
「なにをブツブツと言っているの。ねえ、お願いだから財前くんの前でその顔だけはやめなさいよ」
教えている、とか。
母親が教えるべきことなんか一切のくせに。
その代わりあなたは学校でも教えてくれない興味ないことばかりを叩き込んでくる。
周りへの顔を大切にしなさい。
常に恥のないように立ち回りなさい。
私の娘だということにもっと自覚を持って、行動には慎みなさい。
これのどこが、母親が子供へと行う教育だというの。