孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
外に干していた洗濯物といっしょに部屋のなかへ入ってきた、ブーンという音を出しながら飛ぶ虫。
バチバチと電気のそばを回ってはたまに止まって、私の叫び声に海真くんはどこか笑っていた。
「それっ、外にやって海真くん…っ!!やだっ、ブンブン言ってる……!」
「…あ、ののちゃんのほうに行った」
「いやぁぁぁ……っ!!」
すぐに海真くんに抱きつく。
………と、ぎゅっと抱きしめ返されたような気がする。
「こわい?」
「うん…っ、大きいしっ、なんか怒ってる気がする…っ!!」
「…キレて突進してくるかも」
「きゃーーッ!!」
私の叫び声と、外を通っていったバイク音がハモった。
涙目になりながらぎゅっと目を閉じる。
しばらくすれば開いていた窓から自然と外へ飛んでいったようで、海真くんはカラカラと窓を閉めた。