孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。




「…おいしい」


「滅多に当たらないんだよなあ、あの自販機。今日はいろいろツイてたけど」



三ツ星フレンチだなんて敵うものではない。

ごくごくごくと飲んで、いい飲みっぷりだと競うように彼も喉にとおす。



「初バイトお疲れ。どうだった?」


「…楽しかった」


「またいつでも来なよ。店長も満更でもなかったし」


「…うん」



でも本当は海真くんの演奏ばかりを見てしまっていたから、アルバイトに集中できたのはほんの少しだ。

今もずっと余韻に残っている。



「ピアノ…、すごかった」


「…最後のねこふんじゃったね、あれはおれも自画自賛する」


「……うん」



本当は違うんだけどな…。

そこまでして自分を認めないなら、私も心に留めておこう。


海真くんはさっきの演奏でも最後の締めくくりとして選んだ曲は「ねこふんじゃった」だった。


もちろんお客さんも笑っていた。

自分の十八番で集大成です、なんて前フリをしたから尚更。



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