孤独なお嬢様は、孤独な王子様に拐われる。
そんな私は、自分の身体に回された腕から微かな血の匂いを嗅ぎつけた。
無意識にもくるりと体勢を変える。
「けが、してるの……?」
「ん?…ああ、これか」
「擦りむいてるよ。なにがあったの…?」
右腕に擦り傷が見えた。
まだ新しい傷のようで、どうして今まで気づくことができなかったんだろう。
「日中ちょっと変な奴に絡まれただけだよ。でもまあ……ひとりは殴っちゃったけど」
「な、殴ったの……?」
「うん。…しつこかったから」
あの街では日常茶飯事だという。
すれ違い様に肩がぶつかっただけで、ケガをしなかったら運がいいと。
慣れている海真くんと、信じられないくらいの恐怖を感じている私。
「もっと危ない目に遭ったらどうするの?喧嘩はダメだよ、喧嘩は……だめ」
「…じゃあいつか、ののちゃんが変な男に絡まれたら?なにもせず黙って放っておけって?自分の身だけを守って逃げろって?」
「…それは……」
「必要な場合もあるんだよ。なにもできないで守れないよりは……少しでも守ってやれたほうがいいじゃん」