一番星にキス。
第一章
――尊くん、アイドルになるんだって。
お母さんにそう言われたとき、私は目の前が真っ暗になった。
「えっ」
手からぽろっとシャープペンが落ちて転がった。私の心臓は、どっか行った。心臓が止まるってきっとこういうことを言うんだ。
お母さんは目を丸くした。
「あら、いちご。てっきり尊くんからもう聞いてたと思ったのに」
「き、きいてないよ」
くちびるがふるえた。何かを責めたいような気持ちが、ふつふつと心の底でわきあがって、沸騰寸前のお湯みたいにぼこぼこうなった。
「尊、オーディション、決まったの?」
「そう聞いたけど……」
私はたどたどしく答えるお母さんを横目にスマホをフリックする。遅れてやってきた焦りみたいな感情は、どす黒く私の心を染めていった。
『オーディション、受かったの?』
すぐさま電話がかかってきた。私は震える指で通話ボタンを押す。
「うん、受かったよ、いちご。……誰から聞いた?」
「お母さん」
責めるような口調になってしまうのは、仕方ない。と思う。思いたい。
「ったく。おふくろ、話すの早すぎだろ。まだ合格通知来てから五分も経ってないぞ……」
声音から、尊の苦々しい顔が想像できた。私はそれだけで、尊のことを全部許してしまう。
「――よかった。ずっとアイドルになりたいって言ってたもんね」
「勘違いするなよ。おふくろはそこに居合わせたから知っただけであって、最初に報告したかったのは……」
「わかってるよ、尊」
野宮いちご。十七歳。
幼なじみ、兼……恋人の尊が、ずっと目指していた、アイドルになる夢の、その一歩を踏み出しました。
お母さんにそう言われたとき、私は目の前が真っ暗になった。
「えっ」
手からぽろっとシャープペンが落ちて転がった。私の心臓は、どっか行った。心臓が止まるってきっとこういうことを言うんだ。
お母さんは目を丸くした。
「あら、いちご。てっきり尊くんからもう聞いてたと思ったのに」
「き、きいてないよ」
くちびるがふるえた。何かを責めたいような気持ちが、ふつふつと心の底でわきあがって、沸騰寸前のお湯みたいにぼこぼこうなった。
「尊、オーディション、決まったの?」
「そう聞いたけど……」
私はたどたどしく答えるお母さんを横目にスマホをフリックする。遅れてやってきた焦りみたいな感情は、どす黒く私の心を染めていった。
『オーディション、受かったの?』
すぐさま電話がかかってきた。私は震える指で通話ボタンを押す。
「うん、受かったよ、いちご。……誰から聞いた?」
「お母さん」
責めるような口調になってしまうのは、仕方ない。と思う。思いたい。
「ったく。おふくろ、話すの早すぎだろ。まだ合格通知来てから五分も経ってないぞ……」
声音から、尊の苦々しい顔が想像できた。私はそれだけで、尊のことを全部許してしまう。
「――よかった。ずっとアイドルになりたいって言ってたもんね」
「勘違いするなよ。おふくろはそこに居合わせたから知っただけであって、最初に報告したかったのは……」
「わかってるよ、尊」
野宮いちご。十七歳。
幼なじみ、兼……恋人の尊が、ずっと目指していた、アイドルになる夢の、その一歩を踏み出しました。
< 1 / 18 >