一番星にキス。
第三章
落合さんにライブに誘われてから、「六等星BLOOM」のSNSアカウントをフォローした。
付き合いで登録しただけの、あんまり見ることもないSNSだけれど、こうしてみると情報にあふれている。
たまにアイドルたちもつぶやいているみたい。
『ダンスレッスン後はみんな倒れてるんだけど笑 たけるだけめっちゃ元気なんなんでー?』
あ。
鏡に向かってポーズをとる尊が後ろから撮られている。
『たける、顔ににあわず #ストイックたける』
褒められてる……のかな?
ハッシュタグになっている「#ストイックたける」をタップしてみる。
そこには、尊を推しているらしいファンたちの期待に満ちたつぶやきがたくさん連なっていた。
「期待の尊くん! 会えるのが楽しみ #ストイックたける」
「たけるかっこいいー! 推せる #ストイックたける」
私も、つぶやいてみようかな、と思った。思ったけど――。
「邪魔になっちゃいけない」
だからハッシュタグと一緒に「がんばって」の五文字を消して、ふうと息をついた。
三日にいちどくらいの頻度で、私たちは電話をしている。
些細なこと。とりとめもないこと。私はその時間だけ生きているみたいに振る舞うことができた。でも今は――。
「尊がいないと、こんなにつまらないんだ」
ここ最近出番のない化粧品のポーチを見やって、またため息をつく。
デートのたびに張り切って、それとなく化粧をしていたかつての私が、とっても遠くに感じられた。
遠い昔のことみたい。
尊は、「今日のいちごもかわいい」って化粧を褒めてくれたっけ。
覚悟はしてたしわかってるつもりだし、ううん、わかっているんだけど、私たちの間から失われてしまった時間が、私の人生のほとんどを形作っているんだってことに今更気づいてしまって、私はぼうっと部屋の天井を見上げた。
「ライブか……」
ライブならば、尊の顔を見る理由ができる。私はチケットを買ったファンで、尊はアイドルだ。
「遠いなぁ」
私が愛した星ははるかかなた、遠くて、全然届きそうになかった。