一番星にキス。
 見ない方が良いと言われていたけれど、見るなと言われるものほど見たくなる。
 
 これを、カリギュラ効果っていうらしい。

 私は燃えさかるロクブルのSNSを見ていた。
 スマホのライトに照らされる画面上には、見るに()えない悪口ばかり書き込まれている。

『西園寺翔太、相手の女もアイドルなんでしょ? 最悪。夢壊れた』

『責任とってアイドルやめてほしい。相手の女も破滅してほしい』

『ていうか夢売る仕事してるのに彼女作るとか信じられない。プロ意識のかけらもない』



 ずき、と痛む胸が、心臓の存在を主張してるみたいで、私は拳をぎゅっと握りしめた。

 そのなかで燦然(さんぜん)とかがやく、ロクブル公式のお知らせ。



『一部報道に関しまして、事実確認を行った結果、誤った報道がなされていると判断されました。よって、予定されていたライブにつきましては予定通り開催いたします。ファンの皆様におかれましては、不安な思いをさせてしまい大変申し訳ありません」




 熱愛報道されたサイショーにかみつく人たちは、サメみたいにそのお知らせにもかみついている。私はわけもなく悲しくなった。

 どうして。

 応援したいと思ってる気持ちは一緒のはずなのに。


 そんなときだった。


『ロクブルを信じよう、みんなを信じよう、サイショーを信じよう #ロクブル』



さまざまな色のペンライトを並べた画像を載せて、ひとつの投稿が流れてきた。つづけて。


『今度のロクブルライブ、行きます』

『みんなのこと応援してるから #ロクブル』

 裏切りともとられかねない熱愛報道に対して、アイドルのことを信じようとしている人も、いるみたいだ。

 私も、こっそりつぶやいた。


『がんばってほしい、応援してる』

 ハッシュタグは、つけなかった。でも、祈りは届くはずだ。そう信じたい。




 熱愛報道が揺るがした「六等星BLOOM」のライブ。――無事に終われば良い。

 ライブは二週間後だ。中間テストと、かぶる。





『いちご』

 尊の声はあの日以来、ちょっとずつ疲弊していた。

『いちご。何でもいいから喋って』

 なんでもいいから、話して。喋って。そう言われることが増えた。

「なんでもいいの?」

『うん』

学校では話せないから、電話で話すことが私たちのすべて。

「尊は最近疲れてるように思うよ」

『そう聞こえる?』

「うん。今日なんか特にぐったりしてる。電話短めに切り上げて、早く寝た方が良いと思う」

『やだ。いちご補給しないとやっていけない』

 わがままだ。私はため息を、のみこむ。

「……熱愛報道があったばっかりなのに、こんなことしてていいの?」

『気にしてる?』

「それはそうじゃん。……いつか私たちも、ばれるかもしれないんだから」



 いけない。
 しゃべったらいけないことまで、出てきちゃいそうだ。



『いちごは小難しいこと気にしないで。俺、ちゃんとやるから』



 その言い方に、すこしだけむっとする。


「気にしないなんて無理。っていうか、ちゃんとやるって、なにを」



『アイドルも、いちごの恋人も、ちゃんとやる』

「そうしたら尊、疲れない? 隠し事は、すごく神経を使うよ」

『――いちご、どうしたんだよ』

「どうしたって、隠し事は、疲れる、って思って……」

 ちょっとの間があった。

『いちごは、疲れちゃった?』

 あ。
 
尊がいっそう低い声を出した。いらつかせてしまったかもしれない。

「そ、そんなことない」

『はっきり言って』

「そんな……」

 そんなことはない、とはいいきれない。だって。疲れてしまったのは嘘じゃないからだ。

 別れたふりして、実は付き合っている。
 この状態は、正直すぎる私の神経をすこしずつ削っていた。
 元彼、というだけでちょっと傷つくようなメンタルで、隠し事なんか向いてない。

「……そんな、こと、」


『よし、わかった』


 はっきり言いきれないまま、尊は自己完結してしまった。


「えっ」


『いちごがそういうつもりなら、考えがあるから』

「え?」

『もう風呂入ったろ。……パジャマから出られる服に着替えといて』

「え??」



「迎えに行く」
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