一番星にキス。
第二章
手始めに、私は尊の入所したアイドル事務所のファンクラブに入ることにした。
ファンクラブとはいっても、ファンクラブはグループごとにわかれていて、私はその、アイドル研修生をまとめた「六等星BLOOM」のファンクラブを選んだ。
そこに、尊がいる。
ファンクラブのページを開くとブログが真っ先に出てきて、さまざまなアイドルが定期的にブログを更新していた。
順番が決まっているのか、思いついた順番にブログを書いているのか、そこまでは私にはわからなかったけれど――ブログタイトルの隣には、聞いたことのないアイドルたちの名前がずらりと並んでいる。
上に行くほど新しいブログの一番てっぺんにいるのは、ちょうど尊だった。
「小鳥遊尊」
これが尊のアイドルとしての名前だ。
『所信表明と、決意! (小鳥遊尊)』
タイトルをクリックすると、誰かに撮影してもらったらしい上からの俯瞰のショットに、尊らしい短いコメントがついている。
尊は空を指さすみたいに上に手を挙げて、まっすぐどこかを見つめていた。
『いまは見上げるだけだけど、応援してくれる大切な人のために、毎日自分を磨いていこう! 目指せ一等星! 先輩の背中を追いかけていくぜ! たける』
私はいいねのボタンを押す。このタップが尊の応援になりますように。私は何度も何度も尊のブログを読み返し、それからついているコメントを眺めた。
「頑張ってください!」
「たける応援してる」
「がんばれー! ライブ会場で会えるのを楽しみにしてるね!」
「たけるこっちみて」
もうファンがいて、応援されているんだ。それだけこの“スターズ事務所”は注目されていて、それだけの人が見ているアイドルの現場へ、尊は踏み込んでいったんだ。
遠い。地球から見た星みたいに遠い。
私はスマホを置いて、自室の天井をぼおっと見上げた。見慣れた壁紙が全く違う模様になってしまったみたいに、じっと観察した。壁紙のでこぼこから、人の顔に見えてしまう三つのシミまで観察した。
それから私は唇をなでて、数日前のキスのことを思い出す。思い出して、安心する。
大丈夫、尊はまだここにいる。私の隣にいてくれてる。
私はきっと、これからも何度も、あの日のことをお守りにするんだと思う。