糖度98%楽観的恋愛




中に入って玄関で待っていると、滝沢先生がタオルを持ってきてくれた。

その無地のタオルで髪の毛と体を拭きながら、これは彼女いるなあ、と思った。

タオルから女性が使うような柔軟剤の香りがする。

いい年した男で、こんなにイケメンなのだからそりゃいるだろう。



「ありがとうございました。傘借りて帰ってもいいですか?」

「はあ? シャワーくらい浴びてけよ」



彼女に遠慮して部屋の中まで入らずに帰ろうとした私を、滝沢先生が訝しげに見下ろしてくる。



「……いいんですか?」

「もう風呂沸かしてるし。それに、さっき転けた時に足怪我しただろ。絆創膏持ってくる」



促されるままにローファーを脱いで廊下に上がる。

滝沢先生の部屋はシンプルな必要最低限の家具が置かれているだけの、すっきりした空間だった。


濡れたハイソックスを脱いで大人しくソファに座る私の足を滝沢先生が掴む。

軽く傷口を洗って絆創膏を貼る手つきからは慣れを感じた。


大抵保健室にサボりに行く時はベッドを借りて寝ているので、保健室に来た生徒に接する時の滝沢先生の姿はあまり見ていない。

この人の保健室の先生らしいところを初めて見た。



……こんな小さな擦り傷、別に放っておいていいのに。

大切にされ慣れていない私は何だかむず痒い気持ちになって、お風呂が沸き終わったという知らせの音と同時に立ち上がった。



「お風呂、お借りします」



素っ気なく言うと、滝沢先生は可笑しそうに笑った。



「なかなか懐かない猫みてぇ」



誰が猫だと強い口調で言い返したくなる気持ちを抑え、無視して浴室へ向かう。



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