糖度98%楽観的恋愛



距離の詰め方が陽キャのそれである。

おそらく五度生まれ変わっても私の人生と深くは交わらないであろう類の人間だ。


許可など取らずに勝手に呼べばいいものを、相手に嫌がられない呼び方かどうかを確認しつつ“こちらはあなたと仲良くなりたいです”という意思をアピールしてくるところが嫌らしい。



「……まぁ、いいけど」



それに対する自分の返しも陰キャ丸出しで嫌気が差す。

織田くんは私の返事を聞いて満足気に笑うと、私の席の隣に座った。



「文化祭終わったばっかなのに、もうすぐ期末テストなの憂鬱だよな」

「そう……?」

「あ、そうでもねえって反応だ。美玖、授業サボってるのに成績はそこそこいいもんな」

「勉強はしてるから」



眠たい時は寝たいので、ゆるい先生の授業は適度にサボっている。

ただ、赤点で再試になるのが面倒なのでテストではそれなりの点数を取れるようにはしている。



「でも化学の後半の問題は絶対ムズいと思うんだよな。あの先生ムズい問題出しそうな顔じゃん」

「……そうだね」



コンビニ弁当の鮭を箸で割りながら、適当な相槌を打つ。

こういう時うまく話を広げられないから私には同性の友達がいないのだろう。そしてこんな私にもめげずに話しかけられるメンタルの強さがあるから織田くんには友達が多いのだろう。



「つか、滝沢先生今日女子から二回告られたの知ってる?」

「……は?」



告白現場は確かに見たが、二人? 同じ日に? と訝しげに顔を顰めてしまった。

どんだけ人気なんだろう、あの先生は。



「……くだらない」



ついぽつりと漏らしてしまった本音は、口の中に戻ってこない。

織田くんは私の冷たい発言にちょっと驚いた様子で覗き込んでくる。



「何がくだらない?」



いや、これは……驚きと興味が入り交じった表情と言うべきか……。

あまり言いたくなかったが、続きを待たれていそうなので率直な感想を述べた。



「告白するってことは、多少なりともオーケーされる自信とか、それによって意識してもらえるかもしれないっていう期待があるわけでしょ。よりにもよって教員に対してそんな期待を抱くなんて、楽観的すぎない? 学校に何しに来てんのって話だし」



梅干しとご飯を飲み込んだ後にそう言えば、暫しの沈黙が訪れる。

まずい、厳しいことを言い過ぎたかもと内心焦った。

お喋りな織田くんが黙るということは、それなりに思うところがあったんだろう。


生徒の恋心を馬鹿にするなと怒られるだろうか。



織田くんにどう受け取られたか内心不安に思っているうちに、織田くんは



「美玖は恋愛したことないんだな」



なんて淡々と感想を述べるように言ってきた。



「ただただ好きで、溜め込んだ思いを吐き出したい時ってあるんだよ」



……そんなものなんだろうか。

私が感情に乏しい人間だから分からないだけかもしれない。



「恋愛は楽観的じゃないとやってらんねぇし?」



その言葉を聞いて、何で自分が男に抱かれてもうまく恋愛感情を抱けないのかしっくり来た。

基本的に悲観的な自分に、恋愛はきっと無理なのだ。




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