糖度98%楽観的恋愛



そうこうしているうちに他の生徒たちが来て、織田くんはそちらに呼ばれるようにして後ろの方の席に移動してしまった。

私みたいな悪い噂が立ってる女子と一緒にいたら織田くんもどう思われるか分からないのに、彼はギリギリまで私の傍にいた。


正直、私と変に絡んでいたら体の関係があると思われたり、女子から嫌な目で見られたりするだろうからやめた方がいいと思う。

織田くんみたいな人気者にそんな心配をする必要はないかもしれないが。



空になったコンビニ弁当の箱を捨て、実験室の隅でスマホをいじっているうちに授業が始まった。

担当教員は年配の先生で、猫背のまま聞こえるか聞こえないかくらいの声量で実験内容を説明しているその姿を見るに、あれが織田くんの言っていた難しい問題を出しそうな先生なのだろうと思った。


(……退屈)


窓の外の曇り空を見上げて、早く終わらないかなと欠伸をする。

今日も夕方から雨が降るようだった。



放課後になると、部活勢は各々の鞄を持って部室へ移動し始める。

部活のない生徒は教室に残って勉強をしたり、クラスメイトとおしゃべりをしたりしている。

放課後になっても教室の騒がしさは収まらない。

どうして学校に残ってまで人と喋りたがるんだろうと心底不思議に思いながら、私は少しでも静かな場所へ向かうために教室を出た。



眠い。あまりにも眠い。

どうせ帰ったって誰もいないし、雨激しいし、天気が落ち着くまで学校で寝たい。

でもいつもみたいに保健室は使えない。



どうしたもんかなと思いながら、ひとまず比較的人の少ない音楽室のある階へ向かい、廊下の途中の休憩所にぽつんと立っている自動販売機に200円を入れた。

隣の校舎から生徒たちの声が僅かに聞こえてくるものの、ここは静かだ。

そこまでお腹空いてないし、ナタデココだけをお昼ご飯にしてさっさと寝ようと思ってボタンを押すが、自動販売機は反応しない。

2度3度押してもダメだったので仕方なくナタデココは諦めて綾鷹のボタンを押すと、こちらも反応しなかった。

売り切れとは出ていないし、不調かなと思ってお釣りのバーを捻るが、お金は出てこない。



「…………飲まれた……」



くそ、と思って何度かバーをガチャガチャしたが、やはり出てこない。



「さいあく、」



大きな溜め息を吐いたその時、遠くでぶはっと誰かが吹き出すのが聞こえた。

振り返ると、缶コーヒーを片手に持った滝沢先生がいた。



「自販機に向かって鬼の形相してるやつ初めて見たわ」



笑いを噛み殺すように口元を押さえながら私に近付いてきた滝沢先生は、私の顔を見てどこか見覚えがあるとでも思ったのか、顎に指を当てて首を傾げる。



「……えーっと、」

「中谷です」

「あー、そうそう。ナカタニね。ゴメンネ?」

「いいですよ、どうせ覚えてないと思ってました」



滝沢先生が来たなら他の寝場所を探さねばならないだろう。

まぁ一応すぐどこかへ行く可能性もあるのだしここにいる理由を聞いておこうと思い、顔を上げて問い掛ける。



「何でこんな人気のないところに来てるんですか?」





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