糖度98%楽観的恋愛
「んー。逃げてきた」
「逃げ…?」
「放課後になるとなー、生徒が一気に押し寄せてくるわけ。怪我してねぇくせに」
自販機の隣に座った滝沢先生は、さも面倒臭いと言いたげな溜め息を吐き、缶コーヒーに口を付ける。
唇の形がいいせいか、飲み物を飲む横顔が妙に色っぽく見えた。
……ああ、なるほど。生徒たちは保健室を遊び場だと思っている節がある。
以前昼休みに保健室を訪れた時も、生徒が居すぎて眠れなかった。
その大半は滝沢先生目当てだ。
「ナカタニは何でここいんの?」
「……寝ようと思って?」
「ふーん。相変わらずぼっちだな」
「相変わらずって言えるほど、私のこと知らないですよね」
「知ってるよ。たまに見てたし」
さらっとそんなことを言う滝沢先生を、つい冷めた目で見下ろしてしまった。
そういうところだぞ、と言おうとして、やめた。今のは、多分無自覚だ。
「……お先に失礼します」
この言い回しが果たしてこの場面に合っているかは不明だが、とりあえず軽く頭を下げてこの場を去ろうとする。
すると、滝沢先生が横目に私を見上げた。
「ナカタニってさ」
「はい」
「とことん俺に興味ないよな」
珍しいものでも見るかのような目だ。
……興味がない? それはちょっと違う。
「そう思いますか?」
「違ぇの?」
「興味はありますよ」
色々と強烈だしな、キャラクターが。と心の中で付け足す。
「どういうところに興味ある?」
「……どんな人なんだろう、みたいな?」
どういうところと聞かれるとよく分からず、つい疑問形で返してしまった。
「どんな人に見える?」
まさかまた質問されるとは思わず、ぱちりと瞬きする。
「……あくまでイメージですけど」
「いーよ」
「胡散臭い。」
「……」
「人のこと見下してそう。…いや、違うな、見下してるっていうか、興味がない?」
「……」
「子供に好かれるけど好かれたいとは思ってなさそう。というか、むしろ子供は嫌いそう」
「……」
「面倒なことも嫌い。平穏に適当に生きていければなと思ってそう」
「……」
「あと、」
とりあえず色々言い尽くした後最後に残ったのは、初めて顔を見た時から思っていたことだった。
「アブノーマルなプレイが好きそう」
まぁ、めちゃくちゃ勝手なイメージなんだけど。
最後まで言ってから、微妙に失礼なことしか言っていないことに気付いて、必死に何か褒め言葉を付け足そうとしたが、滝沢先生は気分を害した様子もなくニヤリと笑う。
何だか嫌な笑い方だと思って、今度こそ「失礼します」と言って滝沢先生を通り過ぎた。
後ろで滝沢先生の笑い声がしたが、一体何に対する笑いなのかはよく分からなかった。