糖度98%楽観的恋愛
高校一年生
雨の日
「なぁ、二組の中谷美玖って子可愛くね?」
「やめとけって。あいつ美人だけど男好きって有名だし」
すれ違う男子たちが、もう少し声のボリューム下げられないのかと疑ってしまうくらい大きな声で私の噂をしている。
男が好きなんじゃない。
男と触れ合うことが好きなだけ。
高校に上がる頃には棒にモテるようになっていた。
それに応じていたら、いつの間にか私は陰で誰とでも寝る女だと言われるようになった。ちゃんとした恋人がいたことはない。
蔑む男もいれば好都合だと近付いてくる男もいる。
一部の人はそんな私を憐れむような目で見るけれど、別に私は穴目当てで寄ってくる男のことなんて一本の棒としてしか見てないし、需要と供給が一致しているのだから他人に同情される筋合いはない。
私は別にまともな恋愛がしたいわけじゃないのだ。ただ異性と体を重ねたい。
我ながら、ビッチと言われても仕方がないと思う。
マンモス校なだけあって男も多く、高校に入って半年が経つと私は己の経験人数を数えることを止めていた。
「くっさ。」
そんなある日、保健室のベッドで横になっていた私のベッドのカーテンを開けた養護教諭は、鬱陶しそうに私を見下ろした。
「精液臭い」
次に吐き捨てられた言葉はあまりにも直接的で、つい目だけで養護教諭の方を見てしまう。
そんな匂いしないように思うが、嗅覚が鋭い人には残り香が分かってしまうのかもしれない。
「いつもしてんだろ、お前」
この養護教諭がいない間に保健室で男と交わることは何度かあったが、まさかバレているとは思わなかった。……これは怒られるな、と心構えする。
それはそれはうるさく説教されることだろう。自分の体は大切にしなきゃいけないとか、性病のリスクとか、保健の教科書に載っていそうなことをつらつら言われるに違いない。
そう覚悟して起き上がったのだが、養護教諭の発した言葉は私の予想していたものとは違っていた。
「そういうことは他所でやれよ。ここで問題起きたら怒られんの誰か分かる?」
面倒そうにそれだけ発したと思うと、私から興味を失くしたかのようにベッドから離れていった養護教諭は、欠伸しながら椅子に座る。
――……変な大人。
それが初めて抱いた、
その養護教諭に対する印象だった。