糖度98%楽観的恋愛
目的を果たし、カフェで何か飲んでから帰ろうかと思い向かっていると、今度は一人の滝沢先生に出くわした。
このショッピングモールは他と比べても広いというのに、何故こうもよく会うのだろう。
「……こんにちは」
一応挨拶しておかなければ失礼だと思った。
「おー」
気のない返事をした滝沢先生は、私の手元に視線を落とす。
「本?」
「あ、はい」
「ふーん」
滝沢先生は自分から聞いておいて興味なさげだ。
クリスマスが近付くと、お母さんはいつもより多めにお金を置いていく。
クリスマスプレゼントのつもりかもしれないが、いざお金を与えられると何を買っていいか分からない。
今日はとりあえず最近のベストセラーの小説を買った。
「滝沢先生は靴買ったんですか?」
見たところ手ぶらだが、今はこれくらいしか話の広げようが無い。
「おー。カノジョの靴」
「彼女……やっぱりデートだったんですね」
「あぁ。あいつ先帰ったけど」
「一緒に帰らなくていいんですか?」
「何で?」
普通は一緒に帰るものでは、と言おうとして、そういえば自分に恋人がいたことのないことを思い出した。
私には世のカップルのやり方なんて何も分からない。
「意外でした。恋人がいたの。家にも女性の痕跡なかったですし」
だから抱いた感想だけを述べた。
普通、彼女がいたら部屋に歯ブラシとか女物のスキンケア用品とか、生理用品とか置かれていてもおかしくないのに。
滝沢先生の部屋に、それらの存在は一切なかった。
「入れたことねぇもん。家」
「……は?」
「部屋に他人入れんの苦手なんだよ」
そう吐き捨ててブラックコーヒーのカップに口を付けている滝沢先生を、困惑しながら見つめた。