糖度98%楽観的恋愛
じゃあ何で私はあっさり入れてるんだ、と疑問に思ったところで、もしかするとこの男は生徒のことは一人の人間としてカウントしていないのかもしれないと一つの答えに辿り着いた。
滝沢先生にとっての“他人”っていうのは、成熟した大人のことなのだろう。
私は甘めのカフェオレを飲みながら提案した。
「彼女いるって言っておけば、生徒に好かれなくて済むんじゃないですか?」
滝沢先生を狙う女生徒は意外と多く、滝沢先生がそれを迷惑がっていることも、私はもう知っている。
「言ってるよ。でも広まらねぇの。くだらねぇ噂はすぐ広まるくせに、俺の事実は全然広まらねぇ」
「……嘘だと思われてるのでは?」
「なんで。俺そんな“胡散臭い”?」
冬休み前の私の言葉を引用するような言い方だ。根に持っているのだろうか。
「恋人いるところが想像できないんですよ、滝沢先生って」
「そうか? 俺だって人並みに男女交際してきたけどなぁ」
「人に執着しなさそうですし、独占欲もなさそう」
「また俺の分析かよ」
ククッと笑った滝沢先生は、寒いのかポケットに手を突っ込んだ。
「まぁ、確かに女に対する独占欲は皆無だな。昔っから。浮気されても何も思わねぇし」
「……その域ですか」
「周りが浮気くらいで騒いでんの見ても、何でそこまで? って思うわ」
浮気で騒ぐのは独占欲云々と言うよりは裏切り行為だからではないだろうか。
滝沢先生は人に裏切られてもなんとも思わないらしい。
そうだとしたら、何だか悲しい人だ。
「譲り癖できてんのかもな」
「譲り癖?」
「俺こう見えて長男なの。下に2人いる」
いつも生徒たちに囲まれている滝沢先生を見ているから、下に兄弟がいるというのにも違和感は覚えなかった。
「持ってるもんは全部弟たちに取られたから。それが当たり前だって思ってんのかも」
「……じゃあ、今後は放さないようにしないといけませんね。滝沢先生の物は、滝沢先生の物ですから」
当たり前のことを指摘すると、滝沢先生はちょっと驚いたように目を見開く。
そして、少しの間を置いて「そうだな」と言うと、いつかの日のようにぽんと私の頭を叩き、どこかへ行ってしまった。