糖度98%楽観的恋愛





それから変わらない日々が過ぎ、秋が来た。



文化祭の準備期間になると、どの教室も殆ど使われてしまい、サボる場所がなくなる。

元々文化祭なんてまともに参加する気のない私は、保健室に入り浸るようになった。



頻繁に通っている内に、特に必要でもない例の養護教諭のフルネームを覚えてしまった。

ネームプレートに書かれた下の名前が、漢字は違うものの過去に関係を持った男の名前と同じだったから。



滝沢拓真。



おそらく覚えたところで一生呼ばないであろうその名前を、私は何度も目にした。





3日間続いた文化祭の最終日、おそらく同じクラスであろう女子が私に話しかけてきた。



「あのっ、中谷さん。今日この後焼き鳥屋さんで打ち上げあるんだけど来ない?」



見たところ他のみんなは打ち上げの存在を既に知っているようだった。多分クラスLINEか何かでお知らせしていたんだろう。

私はそんなグループに入ってないから知らないけど。



「ここから近いし、グループ予約してるから安いよ!」



……別に仲良くもないのによく誘う。

まぁ、これは習わしみたいなもんだ。行事ごとが終わった後だけわざわざクラス全員を集めて打ち上げをし、全体写真を撮ってSNSに上げる習わし。

みんな仲の良い自分たち、青春真っ只中にいる自分に酔いたいだけ。仲間内だけでやればいいものを。



参加しなければ空気読めない奴扱いされるのは目に見えている。

……でもまぁ、元々そんな扱いだし、断ったところで減るものは無い。



「悪いけど私は…」

「中谷来んの?」



断ろうとした時、急にある同級生が会話に割って入ってきた。

彼の名前は織田くん。下の名前は忘れた。

クラスで常に存在感のある、絵に描いたようなスクールカースト上位の人間だ。



「いや、私は、」

「来るんだって。参加に丸しといて」

「……」



私の言葉を遮るようにして女子に返事した織田くんに唖然としてしまう。

女子も女子で私に確認もせず私は参加ということで話を進め始めた。

どういうつもりだと目だけで訴えれば、カースト上位野郎織田くんはニカッと笑う。



「中谷、文化祭期間ずっといなかったろ?クラスの連中にも馴染めてないみたいだし。これを機に女子とも話してみろよ」



余計なお世話だ、というストレートすぎる言葉を何とか飲み込んだ。親切の方向性を見事に間違えている。



「お節介……」

「え?」

「人の世話焼く自分が好きなタイプの人間でしょ、絶対」



このくらい嫌味を言っておけば今後余計なことはしてこないだろうと思いハッキリ言ってやったが、織田くんは一瞬きょとんとしただけで、何故かすぐ面白がるように吹き出した。



「中谷ってさ」

「なに」

「もしかして相当ひねくれてる?」



……悪い人ではないのだろうが、この男とは話が合わない、そう思った瞬間だ。





< 3 / 29 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop