糖度98%楽観的恋愛
新学期
あっという間に年が明けた。
年末年始もお母さんは家に帰ってこなかった。
私としても「年明けだから」という理由でおせちだの初詣だの行事ごとを大切にするタイプではないので、いつも通りの日々を過ごした。
そのうち三学期が始まり、寒い中スカートで登校しなければならないことがかなり億劫だった。
始業式のために体育館に向かう途中、他クラスの生徒たちの噂話を耳にした。
「滝沢先生彼女と別れたんだって!」
「えーマジぃ?」
「マジマジ。あたし聞いたもん」
「ていうか本当に居たかどうかも怪しくない? 恋人作る滝沢ちゃんとか想像できなーい」
滝沢先生の恋人の存在が真偽不明の都市伝説のような扱いになっていることが少し面白かった。
体育館は校舎から少し離れた場所にあって、一度靴を履いて外に出ないとたどり着けない。
一人でゆっくりと向かっていた私は、ポケットの中にスマホが入っていないことに気付いて一度教室に戻ることにした。
一応私も現代人の一員であり、スマホがないと不安になってしまう病気を患っている。
始業式の間くらい持っていなくても構わないけど、取りに行く時間があるなら取りに行きたい。
教室に戻って鞄からスマホを取り出し、もうみんなすっかり始業式に向かったおかげで誰もいない廊下を歩いて再び体育館へ向かう。
くあ、とあくびしていると、後ろから突然声をかけてくる人物がいた。
「わっ」
「ひっ!!」
びっくりして肩を揺らした私は、反射的に後ろを振り返る。
そこに立っていたのは、からかうような笑みを浮かべる織田くんだった。