糖度98%楽観的恋愛


「じゃま。」

「う、わっ、」



ずしりと肩に重みを感じ、コップを床に落とすところだった。

声の方を向くと、いつの間にかドリンクバーへ来ていたらしい滝沢先生が私の肩にもたれかかっている。

確かにずっとここに立っていたな、と思い退いてやると、滝沢先生は怠そうにコーラを入れ始めた。

……ていうか先にいたのは私なのに何で私が滝沢先生に譲ってるんだ……。



「ここ来たの、男目当て?」

「……はい?」



私の方に視線を向けず、何気なく聞いてきた滝沢先生は、私が聞き返したことでようやく目だけで私を見た。



「男と手ぇ繋いでただろ」

「……見てたんですか」

「入ってくる時見えた。」



その声音に咎める響きはない。

私の男関係のだらしなさについて注意する気はさらさらなく、単純に話題として出してきているのだろう。



「何?これからお持ち帰りされんの?最近の女子コーセーは爛れてんなぁ」

「…いや、宅間とは別に、」

「……“たくま”?」



すっと、滝沢先生が目を細めた。



「ふーん。あいつ名前たくまって言うのな。俺と同じ」



あまりにも自然に、滝沢先生の親指が私の唇をなぞる。



「じゃあお前、あいつに抱かれる時俺の名前呼んでんだ?エロいね」



ゆるりと弧を描くお前の口元の方がえろい、とつい言い返したくなった。

こんなことを言っても不快感を与えないのは、この男の整った顔面の為せる業なのか。



「……えろおやじ」



ぽつりと漏らしたその言葉はしっかりと滝沢先生の耳に届き、滝沢先生は弾けるように笑う。



「オヤジねぇ。ショックだわー」



ククッと噛み殺すように笑った滝沢先生は、私から手を放してコップを持ち、意外なことを聞いてきた。



「名前何だっけ?」

「…中谷です」



あれだけ保健室へ通っていたのに覚えていなかったらしい。つくづく生徒に興味のない人だ。



「ナカタニね、ナカタニ。覚えとくわ。3日後には忘れてるだろうけど」

「…何ですか、それ。覚える気ないじゃないですか」

「人の名前覚えるの苦手なの、俺」



悪びれることなく言い切った滝沢先生と見つめ合うこと数秒、滝沢先生は私から視線を外し、私の頭をぽんと叩いて出ていく。



「すり減らされていると感じながらセックスばっかしてんなら、自傷行為と同じだぞ」



興味無さげにそう残して。




それは多分、宅間に手を重ねられて嫌そうにしていた私の様子を見ての言葉だった。




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