涙を越えて
第十六話 2ndシングル
『囚われた蝶』
⚫嵐part
☆吹雪part
⚫蜘蛛が獲物を捕まえるように
中に取り込まれた
蝶が花の蜜を求めて彷徨うように
匂いに誘われた
☆恋しい、なんて生易しいものじゃない
愛おしい、それでいて壊してしまいたいくらいの熱情
⚫気づいていた 心の変化を
気づかないフリで誤魔化す日々
唯一の逃げ場がそこしかなかったから
☆貴方は白 純粋な色
白はどんな色をも受け止める
だからいつでも不安で どんな時でも確かめたくて
私の色に染めたくて
⚫だけどもう逃げられない
認めるしかない
☆もう離れられない 逃げられない
⚫俺は囚われた蝶なのだろうか………
☆だって貴方はもう、白には戻れないから………
「これが2ndシングルか……」
曲が終わって数秒後、俺は歌詞カードから顔を上げて言った。吹雪が隣でため息をついている。気持ちがわかる分、複雑な気分になった。
「これってまた社長の作詞なんでしょ?私達をイメージして作ったとか言ってたよね。氷月?」
「うん、そうだよ。」
「だったら尚更恥ずかしくて歌えないわ!私達って、ううん……私ってこんな風に見られてたんだって思うと……」
白い頬が徐々に赤く染まっていく。それを見て何故か俺も恥ずかしくなってきた。
「こんな風って~?」
無邪気に雷が聞いたが、もの凄く怖い目で睨まれて笑顔のまま固まった。はは…ご愁傷さま……
「っていうかさ、これ氷月の曲じゃないよな?もしかして作曲も……?」
「……うん、社長。」
竜樹の指摘に気まずそうに頷く氷月。すると風音が焦ったように声を出した。
「そんな!それじゃあ僕達の曲じゃないよね?こんな事言いたくないけど、社長がイメージする曲を歌わされてるって……」
「わかってる!」
「っ……!」
初めて聞く氷月の怒声に風音だけじゃなく、全員が息を飲んだ。
「僕だって納得した訳じゃない!」
「氷月……」
「僕達の最終目標は、『有名になって世界中の人を幸せにしたい。あのライブハウスで凱旋ライブをする』事だ。だけどそこまで行くには、今の僕達の居る場所はまだまだ遠い。だから今は一人でも多くの人に僕達を知ってもらう事が大事だと思ってる。だからここは……」
「我慢しろって事かよ……」
「竜樹!それは言い過ぎだ!」
「お前はいいのかよ!嵐!いいのかよ、これで……」
「竜樹……」
竜樹が悔しげに頬を歪ませて顔を伏せる。見ると全員が俺から視線を逸らした。それぞれ思うところがあるのだろうが、何も言わない。いや、言えないのだろう。ここは俺がリーダーとして今思った事を素直に言おう。
「氷月……」
「……何?」
「俺は今回はこれでいこうと思う。」
「嵐!」
「ごめん、竜樹。お前の言いたい事は痛い程わかる。だけどここが正念場だって思うんだ。デビューシングルはそこそこの売り上げで歌番組もいっぱい出たし、雑誌に特集されたお陰で顔と名前のセットで覚えてもらう機会が増えた。そしてこの二枚目のシングルの売れ具合でこの先の行く末が決まるかも知れないんだ。神田社長は何組ものアーティストを輩出した大物なんだよな?信じない理由なんてないと思うんだけど。」
俺が言うと、子どものように口を尖らせた竜樹が『けどよ……』と呟いた。
「氷月の事だから『はい、そうですか』って引き下がった訳じゃないんだろ?」
「え?そうなの、氷月?」
悪戯っぽく氷月を見ると、雷がすっ頓狂な声を出した。
「……ファーストアルバムの全曲と次の3rdシングルの作詞・作曲は勝ち取ったよ。」
「な、何だぁ~……」
風音が力が抜けたような声を出す。見ると片膝をついて項垂れていた。
「か、風音君!大丈夫?」
「南海ちゃん、ありがと。大丈夫…だよ。ゴホッ…ホッとして力が抜けただけ。」
「でも咳が……」
「あぁ、最近風邪気味なんだ。ホント、大丈夫だから。」
「おいおい、大丈夫かよ。ちょっと休んだ方がいいんじゃねぇか?」
「大丈夫だって!」
南海ちゃんや竜樹の心配そうな声にも『大丈夫』で通している。顔色もそんな悪くないし本人が大丈夫って言うなら大丈夫だろと思い、俺は話を強引に戻した。
「とまぁ、次からは氷月の曲で歌えるみたいだし、今回だけ頑張ろうぜ。な?吹雪?」
「んー、まぁ……今回だけなら……」
俺が振ると、吹雪が渋々頷く。その様子に皆が和んでその場はそこで収まった。
そして2ndシングルのテレビ初披露の楽屋にて事件は起こった。
「何これ!こんなの着れない!」
「は、恥ずかしくて死にそう……」
吹雪と南海ちゃんが叫んだ理由。それは……
「露出が多すぎる!」
だ、そうだ……
「お、俺達は可愛くていいと思うんだけどな……」
「そうそう!二人共スタイルいいし。」
竜樹と雷はそう言って宥めようとするが、すればする程二人が引いていく……
「変なとこ見てんでしょ!このスケベ!」
「雷君サイテー」
ほら、言わんこっちゃない。
「じゃあ上にジャケットみたいの羽織れば?あぁ、こんな所に嵐の私服が……」
「あ、おい!何勝手に……」
氷月がわざとらしく俺の私服を手に取って吹雪に投げた。そして今度は風音の長Tシャツを南海ちゃんへ渡す。
ちなみに吹雪はノースリーブで南海ちゃんはミニスカートだったのだ。
吹雪には俺のジャケットを上に羽織って、南海ちゃんには風音の長Tシャツを腰に巻けと、こういう事らしい。
「あ、嵐のジャケット……」
「……風音君のTシャツ…」
渡された側が赤面するもんだからこっちもつられて赤くなる。何となく風音と顔を見合わせて、ため息をつき合った。
「何で嵐と風音の私服なんだよ……?」
「そうだよ~ズルいぞ!」
「だって雷のは大きくてぶかぶかだし、竜樹はう~ん……趣味がちょっとね……」
「『ちょっと』って何だよ!」
「それでは『the natural world』の皆さん!スタンバイお願いします!」
ちょうどその時スタッフさんが呼びにきた。氷月が代表して返事をすると、俺達は揃って楽屋を出た。
話題のバンド『the natural world』の2ndシングル
『囚われた蝶』が初登場1位を獲得。デビューシングルに続いて大ヒット!
そして年内には早くもファーストアルバムが発売予定。珍しいツインボーカルと確かな実力の演奏のバンドに目が離せない!
この煽り文句で俺達が新聞の広告やネットニュースを賑わせる事になるのはこの少し後だった――
⚫嵐part
☆吹雪part
⚫蜘蛛が獲物を捕まえるように
中に取り込まれた
蝶が花の蜜を求めて彷徨うように
匂いに誘われた
☆恋しい、なんて生易しいものじゃない
愛おしい、それでいて壊してしまいたいくらいの熱情
⚫気づいていた 心の変化を
気づかないフリで誤魔化す日々
唯一の逃げ場がそこしかなかったから
☆貴方は白 純粋な色
白はどんな色をも受け止める
だからいつでも不安で どんな時でも確かめたくて
私の色に染めたくて
⚫だけどもう逃げられない
認めるしかない
☆もう離れられない 逃げられない
⚫俺は囚われた蝶なのだろうか………
☆だって貴方はもう、白には戻れないから………
「これが2ndシングルか……」
曲が終わって数秒後、俺は歌詞カードから顔を上げて言った。吹雪が隣でため息をついている。気持ちがわかる分、複雑な気分になった。
「これってまた社長の作詞なんでしょ?私達をイメージして作ったとか言ってたよね。氷月?」
「うん、そうだよ。」
「だったら尚更恥ずかしくて歌えないわ!私達って、ううん……私ってこんな風に見られてたんだって思うと……」
白い頬が徐々に赤く染まっていく。それを見て何故か俺も恥ずかしくなってきた。
「こんな風って~?」
無邪気に雷が聞いたが、もの凄く怖い目で睨まれて笑顔のまま固まった。はは…ご愁傷さま……
「っていうかさ、これ氷月の曲じゃないよな?もしかして作曲も……?」
「……うん、社長。」
竜樹の指摘に気まずそうに頷く氷月。すると風音が焦ったように声を出した。
「そんな!それじゃあ僕達の曲じゃないよね?こんな事言いたくないけど、社長がイメージする曲を歌わされてるって……」
「わかってる!」
「っ……!」
初めて聞く氷月の怒声に風音だけじゃなく、全員が息を飲んだ。
「僕だって納得した訳じゃない!」
「氷月……」
「僕達の最終目標は、『有名になって世界中の人を幸せにしたい。あのライブハウスで凱旋ライブをする』事だ。だけどそこまで行くには、今の僕達の居る場所はまだまだ遠い。だから今は一人でも多くの人に僕達を知ってもらう事が大事だと思ってる。だからここは……」
「我慢しろって事かよ……」
「竜樹!それは言い過ぎだ!」
「お前はいいのかよ!嵐!いいのかよ、これで……」
「竜樹……」
竜樹が悔しげに頬を歪ませて顔を伏せる。見ると全員が俺から視線を逸らした。それぞれ思うところがあるのだろうが、何も言わない。いや、言えないのだろう。ここは俺がリーダーとして今思った事を素直に言おう。
「氷月……」
「……何?」
「俺は今回はこれでいこうと思う。」
「嵐!」
「ごめん、竜樹。お前の言いたい事は痛い程わかる。だけどここが正念場だって思うんだ。デビューシングルはそこそこの売り上げで歌番組もいっぱい出たし、雑誌に特集されたお陰で顔と名前のセットで覚えてもらう機会が増えた。そしてこの二枚目のシングルの売れ具合でこの先の行く末が決まるかも知れないんだ。神田社長は何組ものアーティストを輩出した大物なんだよな?信じない理由なんてないと思うんだけど。」
俺が言うと、子どものように口を尖らせた竜樹が『けどよ……』と呟いた。
「氷月の事だから『はい、そうですか』って引き下がった訳じゃないんだろ?」
「え?そうなの、氷月?」
悪戯っぽく氷月を見ると、雷がすっ頓狂な声を出した。
「……ファーストアルバムの全曲と次の3rdシングルの作詞・作曲は勝ち取ったよ。」
「な、何だぁ~……」
風音が力が抜けたような声を出す。見ると片膝をついて項垂れていた。
「か、風音君!大丈夫?」
「南海ちゃん、ありがと。大丈夫…だよ。ゴホッ…ホッとして力が抜けただけ。」
「でも咳が……」
「あぁ、最近風邪気味なんだ。ホント、大丈夫だから。」
「おいおい、大丈夫かよ。ちょっと休んだ方がいいんじゃねぇか?」
「大丈夫だって!」
南海ちゃんや竜樹の心配そうな声にも『大丈夫』で通している。顔色もそんな悪くないし本人が大丈夫って言うなら大丈夫だろと思い、俺は話を強引に戻した。
「とまぁ、次からは氷月の曲で歌えるみたいだし、今回だけ頑張ろうぜ。な?吹雪?」
「んー、まぁ……今回だけなら……」
俺が振ると、吹雪が渋々頷く。その様子に皆が和んでその場はそこで収まった。
そして2ndシングルのテレビ初披露の楽屋にて事件は起こった。
「何これ!こんなの着れない!」
「は、恥ずかしくて死にそう……」
吹雪と南海ちゃんが叫んだ理由。それは……
「露出が多すぎる!」
だ、そうだ……
「お、俺達は可愛くていいと思うんだけどな……」
「そうそう!二人共スタイルいいし。」
竜樹と雷はそう言って宥めようとするが、すればする程二人が引いていく……
「変なとこ見てんでしょ!このスケベ!」
「雷君サイテー」
ほら、言わんこっちゃない。
「じゃあ上にジャケットみたいの羽織れば?あぁ、こんな所に嵐の私服が……」
「あ、おい!何勝手に……」
氷月がわざとらしく俺の私服を手に取って吹雪に投げた。そして今度は風音の長Tシャツを南海ちゃんへ渡す。
ちなみに吹雪はノースリーブで南海ちゃんはミニスカートだったのだ。
吹雪には俺のジャケットを上に羽織って、南海ちゃんには風音の長Tシャツを腰に巻けと、こういう事らしい。
「あ、嵐のジャケット……」
「……風音君のTシャツ…」
渡された側が赤面するもんだからこっちもつられて赤くなる。何となく風音と顔を見合わせて、ため息をつき合った。
「何で嵐と風音の私服なんだよ……?」
「そうだよ~ズルいぞ!」
「だって雷のは大きくてぶかぶかだし、竜樹はう~ん……趣味がちょっとね……」
「『ちょっと』って何だよ!」
「それでは『the natural world』の皆さん!スタンバイお願いします!」
ちょうどその時スタッフさんが呼びにきた。氷月が代表して返事をすると、俺達は揃って楽屋を出た。
話題のバンド『the natural world』の2ndシングル
『囚われた蝶』が初登場1位を獲得。デビューシングルに続いて大ヒット!
そして年内には早くもファーストアルバムが発売予定。珍しいツインボーカルと確かな実力の演奏のバンドに目が離せない!
この煽り文句で俺達が新聞の広告やネットニュースを賑わせる事になるのはこの少し後だった――