涙を越えて
第十七話 作詞の依頼
2ndシングルの宣伝も一段落した俺達は、ファーストアルバムの制作の為にスタジオに籠っていた。まぁ制作っていっても氷月しかやる事がないんだけど……
でもただ何もしないってのも申し訳ないと思って、前に氷月が作った曲を復習したり自主的にボイトレしたりしていたのだが、急に氷月が俺のレッスン室に来て唐突にこんな事を言ってきた。
「ねぇ、嵐。作詞してくれない?」
「は……はぁ~!?」
思いもかけない言葉に外しかけてたヘッドホンが床に落ちた。
「壊れたらどうするの……」
「いや、悪い……だってさ、そんな事急に言われても……作詞なんてした事ねぇし…」
落ちたヘッドホンを拾いあげて壊れていないか確かめてから氷月が口を開いた。
「このファーストアルバムは全12曲の予定なんだけど、僕一人じゃとても追いつかなくてね。7曲が限界で竜樹にも頼んだんだけど、竜樹は4曲くらいならって引き受けてくれた。でもそうなるとあと1曲足りなくて。だから……」
「俺って事かよ……」
「そう。」
「何でだよ!他にもいるだろ、雷とか風音とか。あ、そうだ!南海ちゃんなんかいい歌詞書けそうじゃん。頼んでみれば……」
「全員から断られた。」
「へっ……?」
まるで悲しみの奥底から出てきたような暗い声で氷月が言う。俺はその様子に一歩後ずさった。
「だからね、こうなったら最終手段って事でこうして君に頼みに来たんだ。もし出来がまずかったら僕が手直ししてあげるから、何とかやってみてくれないかな?この通り!」
氷月に拝まれてたじたじになったけど、今何かすげー失礼な事言われたような気が……
「って、手直しするんだったら最初からお前がやれよ!」
「ほら、吹雪とも相談しながらさ。君達ボーカルが今一番歌いたい歌詞を考えてみたらどうかな。やっぱり歌う人が歌いやすい歌詞の方がいいんじゃないかってデビュー曲や2ndシングルを聴いて思ったんだ。他人のイメージじゃなくて自分達で歌いたい歌を一から作っていく。うん、いいと思うよ。」
「氷月……」
「もし素晴らしいものが出来たら、次からは全て二人に作ってもらうのもいいしね。」
「え"……」
「なぁ~んてね。まぁとりあえず考えてみてよ。じゃあね。よろしく~」
手をヒラヒラさせながら去っていく氷月……しばらく茫然としていたがハッとして心の中で叫んだ。
まだやるって言ってねぇし!っていうか、自分が少し楽したいだけだろうが!(作曲も全て任せてる手前、強くは言えません……)
「あ~疲れた……ちょっと休憩しよ。ついでに吹雪探すか。」
しばらく白紙の用紙と睨めっこしていたが何にも浮かんでこない。飽きた俺は自主休憩をする事にしてレッスン室を出た。氷月の言う通りにするのも癪だけど猫の手も借りたい……いや吹雪の知恵も借りたいという事で、ついでに吹雪の姿を探す事にした。
「っていうか無駄に広いよな~このスタジオ。」
俺達に宛がわれてるのは、まず中央に円形のただっ広いスタジオと、その周りをぐるっと囲むようになっている個人のブースだ。その為個人のブースには出入口が二つあって、中央のスタジオに行くものとブースの外側をこれまたぐるっと囲んでいる廊下に出るものだ。
俺は一旦スタジオに出て吹雪を探したがいなかった。ちょうど南海ちゃんがいたから聞いてみたが、『さっきまでいたけど、いついなくなったかはわからない。自分のレッスン室じゃないかな?』と教えてくれた。隣に風音がいたから同じように聞いてみたけど、答えは同じだった。
「サンキュー。練習中にごめんな。」
「それより嵐。作詞頼まれたんだって?」
「そうだ!お前らが断ったせいで俺に回ってきたんだからな!」
風音の一言に忘れていた怒りが蘇る。抗議すると風音は『ごめん、ごめん。』と苦笑して南海ちゃんを見た。
「だって南海ちゃんがそうした方がいいって氷月に言ったんだもん。」
「何で!」
風音の言葉に俺は南海ちゃんを鬼の形相で見つめた。
「い、いや…あのね、嵐君落ちついて……吹雪は私と二人でやってた時は作詞・作曲してたから頼んでみたらって言っただけなの。」
「え……?」
「そしたら氷月君が『じゃあ嵐から攻めた方が早い』って言って……」
「……なるほど。そういう事か。氷月の奴……」
急に俺のところに来て頼んでいったのは、吹雪に直接言うより俺に言った方が勝算が高いと踏んでの事だったのか。ちくしょう…ナメられたもんだぜ……
「よしっ!そうとわかったっら……」
「嵐?」
「吹雪を早く見つけて面倒事を押しつけてさっさと帰る!」
「えぇ~~……」
「あ、帰るには早いか。さっさと自分の練習に戻る!」
「はぁ~~……」
風音と南海ちゃんの妙に息の合ったため息も無視してスタジオを飛び出した。
「いないな~……」
吹雪用のレッスン室と俺と二人用のレッスン室も見てきたけどどっちにもいなかった。他に行く所っていってもスタジオしかないだろうし。
「あ、でも誰かの個室にいるのかも。」
俺はそう思い立ってまず雷のブースに行った。
「うぃーっす、お疲れ。」
「わっ!……あ、嵐か。氷月かと思って焦ったよ……」
ドアを開けて声をかけると、雷が飛び上がった。さっと何かを隠したけど俺には見えた。
「お前またお菓子食ってたんだろ!」
「ちょっとだけ!ちょっとだけだから告げ口しないで、お願い!!」
雷はデビューしてからずっとダイエットするよう、氷月から言われている。確かに前より五㎏は痩せてきたって言ってたけど、こんなとこでつまみ食いしてたらリバウンドも必至だな……
「お願い~……氷月にバレたら殺される……」
「わかった!わかったからくっつくな!」
でかい体でひっついてきた雷を何とか剥がす。息を整えながら未だに泣きじゃくっている姿を見下ろすとため息をついた。
「言わないからさ、吹雪どこ行ったか知らない?」
「言わない?ホント?」
「うん、言わない。約束する。だから吹雪が……」
「吹雪ちゃんなら竜樹んとこだよ~」
「え?竜樹?」
「うん。」
「何で!」
「何でって……『話があるから俺の部屋来て』って廊下で吹雪ちゃんに言ってたから。あ、盗み聞きじゃないからね!偶然聞こえただけですから!」
慌て過ぎて敬語になってる雷を笑う。と同時に、吹雪が竜樹と一緒にいるという事に動揺した自分をも誤魔化すように咳払いを一つした。
「サンキュー。じゃあな。あ、ほどほどにしとけよ。」
テーブルに乗っていたお菓子の空袋を指差しながら言うと廊下に出た。
「さて、と……」
雷の情報を元に竜樹のブースへと足を運んだ。
「たつ…き……」
いよいよ竜樹のブースに着いて声をかけながらドアをノックしようとした時、小窓から見えた衝撃的な場面に手がグーの形のまま宙に浮いた。
「…………」
呼吸をする事さえ忘れてそれに釘付けになった。しばらくそのまま固まっていたがハッと我に返ってきょろきょろと辺りを見回す。誰もいない事を確認して体から少しづつ力を抜いた。
そして何となく音を立てちゃいけない気がしたから、俺はゆっくり足音を殺して廊下の壁に張りついた。
「ビックリした……」
小さく呟き顔を伏せる。目を閉じればさっきの光景が目蓋の裏に蘇った。心臓がドキドキとやかましく鳴っている。目頭が熱い。
「吹雪……」
俺をこんな風にさせた原因。それは吹雪と竜樹が部屋の中で抱き合っていた。そんな光景だった……
でもただ何もしないってのも申し訳ないと思って、前に氷月が作った曲を復習したり自主的にボイトレしたりしていたのだが、急に氷月が俺のレッスン室に来て唐突にこんな事を言ってきた。
「ねぇ、嵐。作詞してくれない?」
「は……はぁ~!?」
思いもかけない言葉に外しかけてたヘッドホンが床に落ちた。
「壊れたらどうするの……」
「いや、悪い……だってさ、そんな事急に言われても……作詞なんてした事ねぇし…」
落ちたヘッドホンを拾いあげて壊れていないか確かめてから氷月が口を開いた。
「このファーストアルバムは全12曲の予定なんだけど、僕一人じゃとても追いつかなくてね。7曲が限界で竜樹にも頼んだんだけど、竜樹は4曲くらいならって引き受けてくれた。でもそうなるとあと1曲足りなくて。だから……」
「俺って事かよ……」
「そう。」
「何でだよ!他にもいるだろ、雷とか風音とか。あ、そうだ!南海ちゃんなんかいい歌詞書けそうじゃん。頼んでみれば……」
「全員から断られた。」
「へっ……?」
まるで悲しみの奥底から出てきたような暗い声で氷月が言う。俺はその様子に一歩後ずさった。
「だからね、こうなったら最終手段って事でこうして君に頼みに来たんだ。もし出来がまずかったら僕が手直ししてあげるから、何とかやってみてくれないかな?この通り!」
氷月に拝まれてたじたじになったけど、今何かすげー失礼な事言われたような気が……
「って、手直しするんだったら最初からお前がやれよ!」
「ほら、吹雪とも相談しながらさ。君達ボーカルが今一番歌いたい歌詞を考えてみたらどうかな。やっぱり歌う人が歌いやすい歌詞の方がいいんじゃないかってデビュー曲や2ndシングルを聴いて思ったんだ。他人のイメージじゃなくて自分達で歌いたい歌を一から作っていく。うん、いいと思うよ。」
「氷月……」
「もし素晴らしいものが出来たら、次からは全て二人に作ってもらうのもいいしね。」
「え"……」
「なぁ~んてね。まぁとりあえず考えてみてよ。じゃあね。よろしく~」
手をヒラヒラさせながら去っていく氷月……しばらく茫然としていたがハッとして心の中で叫んだ。
まだやるって言ってねぇし!っていうか、自分が少し楽したいだけだろうが!(作曲も全て任せてる手前、強くは言えません……)
「あ~疲れた……ちょっと休憩しよ。ついでに吹雪探すか。」
しばらく白紙の用紙と睨めっこしていたが何にも浮かんでこない。飽きた俺は自主休憩をする事にしてレッスン室を出た。氷月の言う通りにするのも癪だけど猫の手も借りたい……いや吹雪の知恵も借りたいという事で、ついでに吹雪の姿を探す事にした。
「っていうか無駄に広いよな~このスタジオ。」
俺達に宛がわれてるのは、まず中央に円形のただっ広いスタジオと、その周りをぐるっと囲むようになっている個人のブースだ。その為個人のブースには出入口が二つあって、中央のスタジオに行くものとブースの外側をこれまたぐるっと囲んでいる廊下に出るものだ。
俺は一旦スタジオに出て吹雪を探したがいなかった。ちょうど南海ちゃんがいたから聞いてみたが、『さっきまでいたけど、いついなくなったかはわからない。自分のレッスン室じゃないかな?』と教えてくれた。隣に風音がいたから同じように聞いてみたけど、答えは同じだった。
「サンキュー。練習中にごめんな。」
「それより嵐。作詞頼まれたんだって?」
「そうだ!お前らが断ったせいで俺に回ってきたんだからな!」
風音の一言に忘れていた怒りが蘇る。抗議すると風音は『ごめん、ごめん。』と苦笑して南海ちゃんを見た。
「だって南海ちゃんがそうした方がいいって氷月に言ったんだもん。」
「何で!」
風音の言葉に俺は南海ちゃんを鬼の形相で見つめた。
「い、いや…あのね、嵐君落ちついて……吹雪は私と二人でやってた時は作詞・作曲してたから頼んでみたらって言っただけなの。」
「え……?」
「そしたら氷月君が『じゃあ嵐から攻めた方が早い』って言って……」
「……なるほど。そういう事か。氷月の奴……」
急に俺のところに来て頼んでいったのは、吹雪に直接言うより俺に言った方が勝算が高いと踏んでの事だったのか。ちくしょう…ナメられたもんだぜ……
「よしっ!そうとわかったっら……」
「嵐?」
「吹雪を早く見つけて面倒事を押しつけてさっさと帰る!」
「えぇ~~……」
「あ、帰るには早いか。さっさと自分の練習に戻る!」
「はぁ~~……」
風音と南海ちゃんの妙に息の合ったため息も無視してスタジオを飛び出した。
「いないな~……」
吹雪用のレッスン室と俺と二人用のレッスン室も見てきたけどどっちにもいなかった。他に行く所っていってもスタジオしかないだろうし。
「あ、でも誰かの個室にいるのかも。」
俺はそう思い立ってまず雷のブースに行った。
「うぃーっす、お疲れ。」
「わっ!……あ、嵐か。氷月かと思って焦ったよ……」
ドアを開けて声をかけると、雷が飛び上がった。さっと何かを隠したけど俺には見えた。
「お前またお菓子食ってたんだろ!」
「ちょっとだけ!ちょっとだけだから告げ口しないで、お願い!!」
雷はデビューしてからずっとダイエットするよう、氷月から言われている。確かに前より五㎏は痩せてきたって言ってたけど、こんなとこでつまみ食いしてたらリバウンドも必至だな……
「お願い~……氷月にバレたら殺される……」
「わかった!わかったからくっつくな!」
でかい体でひっついてきた雷を何とか剥がす。息を整えながら未だに泣きじゃくっている姿を見下ろすとため息をついた。
「言わないからさ、吹雪どこ行ったか知らない?」
「言わない?ホント?」
「うん、言わない。約束する。だから吹雪が……」
「吹雪ちゃんなら竜樹んとこだよ~」
「え?竜樹?」
「うん。」
「何で!」
「何でって……『話があるから俺の部屋来て』って廊下で吹雪ちゃんに言ってたから。あ、盗み聞きじゃないからね!偶然聞こえただけですから!」
慌て過ぎて敬語になってる雷を笑う。と同時に、吹雪が竜樹と一緒にいるという事に動揺した自分をも誤魔化すように咳払いを一つした。
「サンキュー。じゃあな。あ、ほどほどにしとけよ。」
テーブルに乗っていたお菓子の空袋を指差しながら言うと廊下に出た。
「さて、と……」
雷の情報を元に竜樹のブースへと足を運んだ。
「たつ…き……」
いよいよ竜樹のブースに着いて声をかけながらドアをノックしようとした時、小窓から見えた衝撃的な場面に手がグーの形のまま宙に浮いた。
「…………」
呼吸をする事さえ忘れてそれに釘付けになった。しばらくそのまま固まっていたがハッと我に返ってきょろきょろと辺りを見回す。誰もいない事を確認して体から少しづつ力を抜いた。
そして何となく音を立てちゃいけない気がしたから、俺はゆっくり足音を殺して廊下の壁に張りついた。
「ビックリした……」
小さく呟き顔を伏せる。目を閉じればさっきの光景が目蓋の裏に蘇った。心臓がドキドキとやかましく鳴っている。目頭が熱い。
「吹雪……」
俺をこんな風にさせた原因。それは吹雪と竜樹が部屋の中で抱き合っていた。そんな光景だった……