涙を越えて

第二十三話 秘めた想い

『もしも、あなたが』

 初めての恋だったの あなたが
 どこが好きかとか どうしてあなたなのかとか
 そんなのわからないけど

 もし あなたが
 眠りに落ちても
 私が側にいるから
 約束します そう絶対に

 自分らしくいられたの あなたの隣
 どこまでが友情で どこからが愛なのかなんて
 そんなのわからないけど

 もし あなたが
 海に落ちても
 私が救ってあげる
 誓います そう必ず

 もし あなたが
 眠りに落ちても
 白雪姫のように
 私のキスで……



「風音起きてるかな~ま、起きてるか。もう10時過ぎてるもんな。」
 俺は一人言を言いながら病院の廊下を歩いていた。昨日は何だかんだで竜樹の事考えたせいで寝不足で頭が重い。でも風音の事も心配だからこうして来た訳だけども……
「……あれ?南海ちゃん、来てる……」
 病室の扉に手をかけようとしたら中から楽しげな笑い声が聞こえて思わず立ち止まった。その声の主が南海ちゃんである事に気づいた瞬間、昨日の風音の顔を思い出した。あの時あいつは南海ちゃんの名前を出しただけで赤くなっていた。そうとわかればよく二人で練習していた事にも納得できるし、昨日の取り乱しようや普段の言動から南海ちゃんの方も……?って思ってしまう。よく今まで気づかなかったな……
 と、そこまで考えたところで苦笑した。竜樹と吹雪の事だってずっと気づかなかったじゃないか。そういえば竜樹が抜けたら吹雪はどうするんだろう?竜樹は吹雪も一緒に抜けようって誘ったけど断られたって言ってたし……
「ま、俺には関係ないか…」
 呟くと中の二人に気づかれないように足音を殺して病室を後にした。

「あれ~?嵐じゃん。ヤッホー!」
「雷!お前も来てたのか?」
 自販機でコーヒーでも買おうかと思って休憩スペースに行くと、雷がソファーに座っていた。手にはコーヒーの缶。
「氷月と三人で来る予定だったんだけど、氷月に用事ができちゃって遅れるって連絡があったんだ。」
「それで二人で来たのか。」
「でもその用事も30分くらいのものだったから待ってようとしたんだけど、南海ちゃんが風音に早く会いたそうだったから。先に来たんだ。」
 そう言って笑う雷だけどその表情はいつもの元気いっぱいな笑顔ではなかった。どこか辛そうで消えてしまいそうで……最近どこかで見たような悲しい表情。
 あぁ……そうか。俺と同じだ。そして前に吹雪と話した、モナリザの……

「……そっか。」
「うん……」
 これだけでお互い察したようだ。俺は雷とは別の缶コーヒーを買って、雷の隣に座った。
 俺達のバンドも変わったな。新しい風が入ってきたかと思ったら、あっちでくっつき、こっちでは一人淋しく失恋か……
 ……なんて落ち込んでる場合じゃないぞ。俺にはやるべき事がある。
「なぁ、雷。」
「ん~?」
「氷月もうすぐ来るんだよな?」
「うん。もうそろそろだと思うけど。」
 雷が腕時計を確認して言う。それに頷きで返すと立ち上がった。
「氷月が来たら話がある。」――
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