涙を越えて
第二十六話 二人らしい始まり
次の日、俺達は吹雪と南海ちゃんを『earth』のスタジオに呼んだ。
「そう……竜樹君抜けちゃったんだ……」
南海ちゃんが心底残念そうに言う。その隣で吹雪はずっと俯いていた。眉間に皺なんて寄せて何やら考え込んでいる。俺はそんな吹雪を横目で見ながら、その表情の意味を推測していた。
竜樹は一緒に抜ける件は断られたって言ってたけど、もしかしたら気が変わって辞めたいって言うかも知れない。それで竜樹と一緒にデビューして、俺達なんかより活躍するのかも……
「ねぇ、嵐。」
でもそうなったら俺はどうしたらいいんだろう?吹雪は女が苦手なこの俺が初めて好きになった人。誰でも良かったんじゃなくて、吹雪だからそう思えるようになったのに……こいつが俺の前からいなくなったら俺はいったいどうしたら……
「嵐!」
「いってぇ~~~!!」
突然襲った衝撃に倒れ込む。何が何だかわかんないけど、とりあえず後頭部がめっちゃ痛い。
「あ……吹雪…」
「あはは~吹雪ちゃんのハリセン、久しぶりに見た~!」
痛む所を押さえながら顔を上げると、口をあんぐりと開けた南海ちゃんと爆笑してる雷が見えた。
「え?え!?」
「これで何回目?」
「ひっ!」
仁王立ちで何処から持ってきたのか手には俺の楽譜……
「ご……」
「ご?」
「五回目です~!!」
俺の悲痛な叫びが谺した……
「……落ち着いた?」
「はい……」
ちょっとしたパニック状態に陥った俺は、氷月から吹雪と一緒に追い出されてボーカル用レッスン室に移動した。
「まったく……相変わらずなんだから、嵐は……」
「うん……何かごめん。」
「別に謝んなくていいけど……」
吹雪が気まずそうに視線を逸らす。それにつられて俺も居心地が悪くなった。
「あの、さ……嵐って私と竜樹の事誤解してるよね?」
「え……誤解?」
「確かに竜樹に告白されたけど、私断ったんだ。」
「断った?」
茫然として固まる俺に構わず、吹雪は続けた。
「うん。好きな人いるからって。」
「だってお前!抱き合ってたじゃねぇか!……あ…」
「やっぱり見てたんだ。」
「あぁ……」
うっかり口を滑らせてしまった。じっと見つめられて観念する。
「別にわざとじゃないんだけど、偶然見ちまって……」
「断った時にね、竜樹に突然抱きしめられたの。思わずって感じだったから下心とかはなかったと思う。すぐに離してくれたし。でもあの時何か物音がしたから誰かに見られたのかなって思ってたんだ。その後嵐の様子が変だったから、『あぁ、嵐に見られたんだ…』ってショックだった。」
ショック?何で吹雪がショック受けるんだ?ショックなのは俺の方だろ。……っていうか今さりげなく重大な事聞いたような……
「……って!好きな人って誰だよ!」
思わずでかい声が出る。吹雪もビックリしたみたいで目を少し見開いた。そしてふっと微笑む。
「嵐だよ。」
「へぇ~…俺か。……ってえぇ!?」
「あはは!変な顔!」
腹を抱えて爆笑する吹雪にア然とする。今何て言った?吹雪が俺を……?
でも告白してきた本人は何の照れも恥じらいもなく、目の前ででかい口を開けて笑ってる。その姿を見るに、どうにも信じがたいけど……
「あの…マジで?」
「こんな時に嘘ついてどうするのよ。」
腰に手を当てて偉そうに言う吹雪をしばらく疑惑の目で見つめていた俺だったが、堪えきれずに吹き出した。
「ははっ!」
「ちょっと何よ!」
「いや、お前らしいなって思っただけ。」
「ふぅ~ん……」
「なぁ、吹雪。」
「何よ……」
「俺も好きだよ。」
「……っ!」
「間抜けな顔も、な。」
やられてばっかりじゃ悔しかったから反撃してみる。してやったりっていう顔をして吹雪を見ると肩を震わせていた。
「あれ~?吹雪泣いてんのか?」
「な……」
「な?」
「何恥ずかしい事言ってんのよ!嵐のくせに!」
「……いってぇ~~!!!」
通算六回目のハリセンが俺の頬を打った……
ムードも何もあったもんじゃない始まり方だけど、これが俺達らしいって事なんだ。
目の前で笑う彼女を見てそう、思った。
「あ、ついでに言うけど。竜樹に一緒に抜けようって誘われてないからね。」
「は?」
「あれは竜樹なりに私に告白したっていう事を隠そうとしたんだと思う。」
「そう、だったんだ。」
そっか。誘われた訳じゃなかったんだ。じゃあ吹雪は……
「何処にも行かないよ、私は。」
「!!」
「ずっと嵐の隣にいる。」
「……サンキュー。」
優しく包み込むような声に目頭が熱くなる。俺はそっと背中を向けながらお礼の言葉を言った。
「そう……竜樹君抜けちゃったんだ……」
南海ちゃんが心底残念そうに言う。その隣で吹雪はずっと俯いていた。眉間に皺なんて寄せて何やら考え込んでいる。俺はそんな吹雪を横目で見ながら、その表情の意味を推測していた。
竜樹は一緒に抜ける件は断られたって言ってたけど、もしかしたら気が変わって辞めたいって言うかも知れない。それで竜樹と一緒にデビューして、俺達なんかより活躍するのかも……
「ねぇ、嵐。」
でもそうなったら俺はどうしたらいいんだろう?吹雪は女が苦手なこの俺が初めて好きになった人。誰でも良かったんじゃなくて、吹雪だからそう思えるようになったのに……こいつが俺の前からいなくなったら俺はいったいどうしたら……
「嵐!」
「いってぇ~~~!!」
突然襲った衝撃に倒れ込む。何が何だかわかんないけど、とりあえず後頭部がめっちゃ痛い。
「あ……吹雪…」
「あはは~吹雪ちゃんのハリセン、久しぶりに見た~!」
痛む所を押さえながら顔を上げると、口をあんぐりと開けた南海ちゃんと爆笑してる雷が見えた。
「え?え!?」
「これで何回目?」
「ひっ!」
仁王立ちで何処から持ってきたのか手には俺の楽譜……
「ご……」
「ご?」
「五回目です~!!」
俺の悲痛な叫びが谺した……
「……落ち着いた?」
「はい……」
ちょっとしたパニック状態に陥った俺は、氷月から吹雪と一緒に追い出されてボーカル用レッスン室に移動した。
「まったく……相変わらずなんだから、嵐は……」
「うん……何かごめん。」
「別に謝んなくていいけど……」
吹雪が気まずそうに視線を逸らす。それにつられて俺も居心地が悪くなった。
「あの、さ……嵐って私と竜樹の事誤解してるよね?」
「え……誤解?」
「確かに竜樹に告白されたけど、私断ったんだ。」
「断った?」
茫然として固まる俺に構わず、吹雪は続けた。
「うん。好きな人いるからって。」
「だってお前!抱き合ってたじゃねぇか!……あ…」
「やっぱり見てたんだ。」
「あぁ……」
うっかり口を滑らせてしまった。じっと見つめられて観念する。
「別にわざとじゃないんだけど、偶然見ちまって……」
「断った時にね、竜樹に突然抱きしめられたの。思わずって感じだったから下心とかはなかったと思う。すぐに離してくれたし。でもあの時何か物音がしたから誰かに見られたのかなって思ってたんだ。その後嵐の様子が変だったから、『あぁ、嵐に見られたんだ…』ってショックだった。」
ショック?何で吹雪がショック受けるんだ?ショックなのは俺の方だろ。……っていうか今さりげなく重大な事聞いたような……
「……って!好きな人って誰だよ!」
思わずでかい声が出る。吹雪もビックリしたみたいで目を少し見開いた。そしてふっと微笑む。
「嵐だよ。」
「へぇ~…俺か。……ってえぇ!?」
「あはは!変な顔!」
腹を抱えて爆笑する吹雪にア然とする。今何て言った?吹雪が俺を……?
でも告白してきた本人は何の照れも恥じらいもなく、目の前ででかい口を開けて笑ってる。その姿を見るに、どうにも信じがたいけど……
「あの…マジで?」
「こんな時に嘘ついてどうするのよ。」
腰に手を当てて偉そうに言う吹雪をしばらく疑惑の目で見つめていた俺だったが、堪えきれずに吹き出した。
「ははっ!」
「ちょっと何よ!」
「いや、お前らしいなって思っただけ。」
「ふぅ~ん……」
「なぁ、吹雪。」
「何よ……」
「俺も好きだよ。」
「……っ!」
「間抜けな顔も、な。」
やられてばっかりじゃ悔しかったから反撃してみる。してやったりっていう顔をして吹雪を見ると肩を震わせていた。
「あれ~?吹雪泣いてんのか?」
「な……」
「な?」
「何恥ずかしい事言ってんのよ!嵐のくせに!」
「……いってぇ~~!!!」
通算六回目のハリセンが俺の頬を打った……
ムードも何もあったもんじゃない始まり方だけど、これが俺達らしいって事なんだ。
目の前で笑う彼女を見てそう、思った。
「あ、ついでに言うけど。竜樹に一緒に抜けようって誘われてないからね。」
「は?」
「あれは竜樹なりに私に告白したっていう事を隠そうとしたんだと思う。」
「そう、だったんだ。」
そっか。誘われた訳じゃなかったんだ。じゃあ吹雪は……
「何処にも行かないよ、私は。」
「!!」
「ずっと嵐の隣にいる。」
「……サンキュー。」
優しく包み込むような声に目頭が熱くなる。俺はそっと背中を向けながらお礼の言葉を言った。