不屈の機動隊員と始めるあまから新婚生活〜この愛、刺激的です!〜
「さよなら、太陽さん」
分厚い扉越しに、そっと別れの挨拶を済ませる。
真綾はのろのろと荷造りを始めた。
残された時間は鳴海が帰宅するまでの半日。
真綾は鳴海に何も言わずに旅立つつもりだった。
記入済みの離婚届はすでに用意してある。
昼過ぎには織恵が車で迎えに来てくれる手筈になっている。
(ダメ)
荷物をまとめている最中、相反する感情がぶつかり手が止まりそうになる。
先ほどのキスを思い出し、決意が鈍りそうだった。
それでも、なんとか荷物をまとめ終える。
来客を知らせるインターフォンが鳴ったのは約束の時間の五分ほど前だった。
真綾はダイニングテーブルの上に離婚届を置くと、ボストンバッグを持ちエントランスに降りた。
「平気?顔色が悪いけど」
「平気です」
エントランスで顔を合わせるなり、織恵は真綾の持つバッグを代わりに持ってくれた。
「ねえ、真綾ちゃん。出発する前に少しだけ話さない?」
織恵はバッグを駐車場に停車した車の中に入れると、植木の前に置いてあったベンチに腰かけた。
「もうすっかり秋ねえ。真綾ちゃんが面接に来てからもう一年経ったなんて信じられないわ」
真綾は爽やかな秋の風そのものの飄々とした口調でつぶやく織恵の隣に座った。
ときおり首をすくめたくなるほど冷たい風が吹いてくる。
真綾はこの際だからと、ずっと疑問に思っていたことを織恵にぶつけてみた。