不屈の機動隊員と始めるあまから新婚生活〜この愛、刺激的です!〜
2.結婚はタンドリーチキンを添えて

 二人の関係に転機が訪れたのは、例の銀行立てこもり事件が起きた翌週だった。

「あれ? スマホ……」

 早番での勤務を終え帰宅した真綾は、バッグの中にスマホが入っていないのに気がついた。
 昼営業の後、まかないを食べてから、ロッカールームでスマホを触ったところまでは覚えている。
 そのあと、バッグの中に戻したか記憶が定かではない。
 となると、スマホはロッカーの中にあるに違いない。
 真綾はしばし悩んだ。
 明日の朝までならスマホがなくても、なんとかなるけれど。

「仕方ない。取りに戻るか」

 真綾は重い腰を上げ、スニーカーを履いた。
 買い物に出かけるついでだと思えば、面倒な気分も少しはマシになる。
 仕事で疲れた身体に鞭を打ち、真綾は勤務先である機動隊訓練所に向かった。
 真綾のアパートから訓練所までは歩いて十分ほどの距離だ。
 正門に立つ隊員に首から下げた通行証を掲げ、敷地内に足を踏み入れる。
 食堂のある総合庁舎は正門からメインストリートをまっすぐ歩いたその先にある。
 メインストリートの両端には桜の木が植えられていて、ちょっとした名所になっている。
 四月上旬の今は、満開でちょうど見頃だ。
 関係者以外見られない見事な桜吹雪を楽しめるのも訓練所で働く特権だ。

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