不屈の機動隊員と始めるあまから新婚生活〜この愛、刺激的です!〜
(え?)
配膳カウンター越しではわからない、鳴海の胸の鼓動と体温が突如迫りくる。
不謹慎なことに心臓が早鐘を打ち始めた。
真綾は逞しい胸板に顔を埋めながら、ひたすら息を潜めた。
(鳴海さんがこんなに近くにいるなんて)
ほのかに香るシトラスの匂いに頭が蕩けてクラクラしそうだ。
「もう大丈夫そうだ」
しばらくして、父が追いかけてこないのを用心深く確認すると鳴海は真綾を解放した。
温もりがなくなっていくと、途端に寂しさに襲われる。
抱きしめてもらったのは事故みたいなものなのに、なんとなく離れがたかった。
「明日からは面倒でも正門以外から帰った方がいいな。正門の立番にもそれとなく注意を促しておくから」
「重ねがさねご迷惑おかけしてすみません」
「これぐらいなんでもない。君の安全が第一だ」
その後、鳴海は真綾をアパートまで送り届けてくれた。
「本当に、ここに住んでいるのか?」
「はい」
鳴海は唖然としてつぶやき、驚きを隠すため口もとを手で覆った。
(やっぱり変だよね)
仕方ないこととはいえ、真綾はいたたまれなくなった。
今どき珍しい築六十年の木造アパートは、敷金礼金なし、月二万円と破格の家賃。
オートロックもなければ、管理人もいない。
女性が住まいとしてすすんで選ばない類の部屋だ。