実らない恋の終わらせ方 another
なかなか大学になじめなかった私に明るく声をかけてくれたのが雪乃、大橋雪乃(おおはしゆきの)だった。 かわいらしく咲き乱れる桜の花のような彼女は、私と正反対な社交的で素直な女性だった。

そんな私にないものを持つ雪乃に、私は素直に惹かれた。

『しずくってかわいい名前だね』
そう言って笑ってくれた雪乃。まったく性格が違う私たちだったが、仲良くなるのに時間はかからなかった。
そして、そんな雪乃に声をかけたのが裕也と彼。 ふたりは中学からの親友でいつも一緒だった。

『俺たちずっと一緒なんだ』
誇らしげに紹介する裕也と、どこか少し照れたように笑う彼が印象的で目を奪われた。 雰囲気こそ正反対の二人だったが、信頼しあっているのは見ていてすぐに分かったし、お互いが必要としあっていた。

人見知りで優等生気質な私はなかなか馴染めなかったが、彼らは根気よく話しかけ、時間をかけて頑なだった私の心を溶かしてくれた。

人生で初めてできた大切で優しくて温かい仲間。
授業をさぼることも、放課後の遊び方も、課題を写させてくれたのも彼らだ。どんな嬉しいことも、悲しいことも一緒に乗り越えてきた。

しかし、時間の経過とともに、少しずつ、少しずつ私たちの関係は形を変えていった。
ゆっくりと雪乃と裕也には知られることなく。

彼の視線の先にはいつも雪乃がいて、雪乃の目は裕也を映し、裕也も雪乃だけを見ていた。そして私は……。

きっと私と彼のどちらかが少しでもこの均衡を崩したら、歪な私たちの関係はすぐに破綻したはずだ。
そんな私の複雑な心の変化をどう思っていたかはわからないが、いつのころからか彼は『大丈夫か?』そう私に問うようになった。
主語なく問いかける彼に、いつも『なにが?』そう笑顔を作って答えるしかできなくなっていった。

私は本当は弱くてただ虚勢を張っているだけ。親のせい、育った環境のせい、そんな言い訳をしてばかり。
可愛くなれない自分が本当は大嫌いだった。
弱い自分を隠すためだけに強がる私を、ずっと一緒にいた彼は見抜いていたのかもしれない。

「なにしてるんだか。私」
音にならないぐらいの声が、口をついて自嘲気味な笑みが浮かぶ。

「大丈夫か?」
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