実らない恋の終わらせ方 another
物思いにふけていた私は、不意に聞こえた甘く鼓膜にも響く低い声にビクっと肩が揺れた。 ”大丈夫か?”そんなセリフを私に言う人は、一人しかいない。そして、声に反応してしまう人も。

どうして来たの? そんなことを思う反面、来てくれたことに嬉しさも募る。

そんなぐちゃぐちゃの気持ちのまま振り返るのが怖くて、タイミングよくカクテルを置いてくれたバーテンダーの彼に笑顔を向けつつ問いかける。

「なにが?」
いつも通りに言えたはず。
「隣いい?」

私の問いに答える気はなさそうなその相手の問いかけに、私は隣の空いている椅子に視線を向けた。
「嫌って言っても座るんでしょう? ここにいるってよくわかったね陸翔(りくと)
「わかるよ」
当たり前だと言わんばかりにサラリと言いながら、背後で彼が笑ったのがわかった。そして隣に気配を感じる。

「今日はしずくに半年ぶりに会えてよかった。しずくにとっては仕方なくだったとか?」
「まさか」
正確には半年と少しだ。今が梅雨が明けた七月の上旬で、最後に会ったのは年が明けてすぐ。半年以上は経っている。 会ってなかったのはあなたが忙しかったせいであって、私のせいじゃない。

本当にそう? 私が陸翔を避けてなかったと本当にいえる?
自問自答しても答えは出ない。
彼に会いたくなかったと思わせていた自分に嫌気がさして、無意識にため息が零れた。

「これみよがしにため息をつくのは酷くないか? 本当に会いたくなかった?」
少し不機嫌そうな声が聞こえて、私はそこで初めて隣に座る男に視線を向けた。半年前と何も変わらない。いや、さらに魅力が増した気がする。

「そんなわけないでしょ」

聞いたくせに、私がそう答えるのもわかっていたのだろう、すぐにいつものトーンで言葉が降ってくる。
「それにしてもよく降るな。雨。でも、昼間の結婚式は晴れてよかったよな」
憂鬱そうに眉を潜める表情も様になりすぎる。そんなことを思っていることを悟られないように冷たく言い放つしかない。

「文の最後に主語を持ってくるのはやめた方がいいって何度も言ったでしょう?」
「意味はわかるだろ?」
わかるとか、わからないとか、言葉を生業とする人間なんだから……。そう文句がいつも通り口をつきそうで、慌てて私は口を噤んだ。

不毛だ――。

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