流星群の落下地点で〜集団転移で私だけ魔力なし判定だったから一般人として生活しようと思っているんですが、もしかして下剋上担当でしたか?〜
エンディング【ノイン】実家のような安心感
「帰ってきたぁー!」
「おかえり、リョウ! いやぁ、本当に帰ってこれるとは思わなかったわ」
「えへへ、私もです」
リータが手を広げたので、思わずその胸に飛び込んで抱き締める。
家族にもこんなことをしてもらった記憶がない。
そういう意味では、リータは涼の家族なのかもしれない。
「それで、あの坊やたちはどうなったんだい?」
「えっと……」
「はいはーい、ボクから説明しまーす」
ひょこ、と顔を出したノインが挙手してリータに説明した。
ユオグレイブの町はしばらく壊滅状態の王都を整える間、一部の王侯貴族の居住地となる。
レオスフィードはユオグレイブの町の貴族街で王としての教養を身につけることになり、リグはレオスフィードの希望通り教師として働くことになった。
シドはいつの間にかいなくなっており、再び影ながらリグを守る道を選択したようだ。
フィリックスとスフレは壊滅状態の王都を復興するべく残り、レイオンはアスカたちとともに王都から移動してきた王侯貴族のお目付け役としてしばらくユオグレイブの町の貴族街に滞在することになった。
刃は近く正式に自由騎士団の総本山に向かい、自由騎士になるための試験を受けに旅に出る予定だという。
「で、アンタたちだけ帰ってこれたのかい」
「はい。やっぱりここに……カーベルトに帰って来たかったのでわがままを言いました」
「あらあら、仕方のない子たちだねぇ」
と、言いつつリータはノインのことも涼のことも大事そうに抱き締める。
とても、あたたかい。
「あの、リータさん……またここで、カーベルトで……働かせていただいてもいいですか……?」
「当たり前だよ。好きなだけここで働いておくれ」
「っ! は、はい!」
「刃くんも師匠のお手伝いがある程度終われば戻って来ると思うし、修行も兼ねて一人で本部まで旅させた方がいいのか師匠に確認しておかないとなぁ」
「男の子一人で自由騎士団の本部まで行けるものなのかい?」
「んー、ボクの場合は師匠と一緒に行ったよ。まだ八つの時だったし」
それは保護者同伴不可避である。
しかし、基本的に十五歳を超えて自由騎士団に入団試験を受けに来る者は一人で来るのが“第一試験”となるそうだ。
理由は自由騎士団が人手不足で、三ヶ国の小さな村や町には未だ一人の自由騎士も滞在していない場所もあるから。
そういう小さな村や町にも最低一人は派遣したいらしいので、一人でも対処可能な判断力や実力があるかどうかを“辿り着けるかどうか”で見るという。
なので、それを知らない冒険者が徒党を組んで山登りに挑むと軒並み試験を受ける前に落とされる。
「この“一人で来る”っていう条件は隠してないし、割と公に提示されてるんだけど山登りになったら一人で進むもの、って勘違いしてる人とかいるんだよね」
「そうなんだ……? どこから一人で行かなきゃいけないの?」
「領内に入ったらもうスタートしてるよ。自由騎士が一人でも同行している場合は、特例だと認められるけど」
「じゃあ刃くんにノインくんがついていけば特例になるんだ?」
「そう。ボクとか特例で連れて行ってもらったことになるよね」
でもそれは、ノインが幼かったからだ。
十五歳を超えているのなら、一人で向かうのが通常だろう。
「まあ、刃くんなら大丈夫だと思うんだよね。相棒もいるし」
「ああ、すごく強い相棒だもんね」
「あら! ジンの坊やも相棒が決まったのかい」
「はい! すごく強くてかっこいい竜なんですよ」
「じゃあ、もしカーベルトに立ち寄ったら見せてもらおうかねぇ」
もしもハロルドの元相棒を受け継いだと聞けば、いくらリータでも腰を抜かすかもしれないな、と涼とノインは笑い合う。
リータがふふ、と笑って「それじゃあ今日はあたしがご飯作ってあげようかねぇ」と言って厨房に入っていく。
時間は夕方から夜になりそうな時間帯。
久しぶりのカーベルトでの夜。
「……なんか帰って来たなぁって感じ、ボクもするよ」
「だよね。ノインくんはずっとカーベルトにいられそうなの?」
「んー……どうかなぁ。師匠に剣聖称号授与式には出ろって言われるだろうしなぁ」
「いよいよノインくんも剣聖かぁ」
楽しみだね、と隣に座るノインに話しかけると、ノインは少しだけ複雑そうに微笑む。
ふと、今までのように「ボクは剣聖になれないよ」と言わないことに気がついた。
「自覚が出て来た感じ?」
剣聖になる。
いや、剣聖として――。
そういう意味で聞くと顔を真っ赤にされた。
「ノインく――」
「りょ、リョウちゃんが……言ってくれたから」
「え?」
「だから、あの、リョウちゃんがボクはもう剣聖って……言ってくれたでしょう?」
「……言ったね」
実際その通りだと思う。
ノインはもうとうに剣聖だ。
たくさんの人たちに囲まれて、頼りにされて、その名前だけで盾となる。
「うん、だから――ボク、剣聖としての自覚と自信と覚悟と責任を持って努めようって決めたんだ」
ゆっくり涼を見上げた綺麗な紺碧の瞳。
それに見上げられて、なんとも言えない気持ちになる。
涼を引き上げてくれた声。
「だから、リョウちゃんも覚悟しててね。ボク、まだまだ成長するんだから」
「え……へ?」
ノイン ユオグレイブの町エンディング