流星群の落下地点で〜集団転移で私だけ魔力なし判定だったから一般人として生活しようと思っているんですが、もしかして下剋上担当でしたか?〜
エンディング【シド】
ハロルドとの戦いのあと、シドは意外にもウォレスティー王国召喚警騎士団に捕まった。
リグがレオスフィードの家庭教師をやる、と言ったので、懲役召喚魔法師として働くことにしたのだ。
本当はこのまま姿を消してもいい、と言っていたがリグに捕まってしまったので仕方ない。
シドと一緒にいたいというのが自分の望みだと、あのリグが言ったのだ。
それを聞いてシドが一緒に行くことを選択するのは自然な流れだったように思う。
ただ懲役召喚魔法師に使われる首輪。
監視役としてフィリックスたちユオグレイブの町の召喚警騎士団の第七部隊がつくことになった。
そして――
「ハァーーーーーー……世界最強の賞金首と[異界の愛し子]がうちに住むとはねぇ」
「ご、ごめんなさい……?」
「いや、別にいいけどね。うちみたいなところでよければ、ノインはジンと一緒に自由騎士団の本部に行っちまったし、レイオンは王都の方に残ってるんだろう? リグのことは気になってたし……に、しても本当に本物なんだねぇ」
「はい」
フィリックスに付き添われてカーベルトに入ってきたリグとシド。
リータはそんな双子に、また大きな「ハァー」という溜息を吐く。
呆れているというより信じ難い、という感じだろう。
確かに世界を揺るがした世界最高額の賞金首と世界の均衡を左右する[異界の愛し子]が揃って目の前にいるのは、まあ、異様な光景ではある。
「これから本部に顔を出すけど、涼ちゃんはカーベルトにいる?」
「えっと、私が一緒に行ってもいいんですか?」
「ここに置いて行っても、俺たちと行動していたことを知っている貴族は多い。避難してきたそういう貴族が俺たちの留守中に、お前にちょっかいをかける可能性もある。どうせ関係者だとバレているのなら一緒に行動した方がいいってことだ」
「あ……な、なるほど……じゃあ、一緒に行きます」
フィリックスの言葉が足りないわけではなかったが、シドが全部説明してくれて納得した。
リータに迷惑をかけたくはないので、ユオグレイブ召喚警騎士団本部に同行することにした涼。
いつもやる気のないもんの警備はフィリックスとシドを見て姿勢を正し、生唾を飲み込む。
緊張がモロに顔に出ており、玄関ホールに入るまでこちらを凝視していた。
玄関ホールに入ると入ったで、貴族の召喚警騎士が一斉に注目してくる。
その中で二階の手すりから見えた騎士が、あからさまな敵意を向けて見下ろしてきた。
「この犯罪者め! 恥知らずもいいところだな!」
「あ?」
「ああ……サタラ侯爵家のご子息だ。実家が全壊、ご家族がお父上を残して全滅している。お前の監督役をゆずれとさいごまでさわいでいた」
「あー。なるほど」
指差して叫んだ挙句、「そこで待っていろ!」と階段へ向かう。
サタラ侯爵家というと、かなり位の高い家なのでは。
降りてくるまでにフィリックスが小声でシドに説明する。
取り巻き数名とともに玄関ホールに降りてきたサタラはシドに掴みかかろうとして、フィリックスに妨害された。
「どけ! 平民が!」
「懲役召喚魔法師への暴行は懲役召喚魔法師使役法第一章第三項で禁止されている。懲役召喚魔法師監督役は、懲役召喚魔法師を守る義務がある」
「黙れ! だいたいなんでお前のような平民が監督役に抜擢されるんだ!」
「普通に信頼と実績と実力だろう? 意識改革する気がない貴族は淘汰される予定だそうだが、第一希望者かなにかか?」
「シド、ちょっと黙っててくれ」
話がややこしくなるから、と困った顔で言うフィリックスに、ふん、と鼻で笑うシド。
懲役召喚魔法師となった時に【無銘の魔双剣】は取り上げられたが、支給の双剣でも十分にこの場の誰よりも強い。
その態度にますます顔を赤くして怒るサタラ。
「そもそも、召喚警騎士は騎士爵が与えられる。平民ではなく立派な一代貴族だ。俺の場合は二代目に当たるけどなぁ?」
「ふ――ふざけるな! そもそもこの国の国民ですらないだろう!」
「戸籍の話してる? 懲役召喚魔法師になった時点で仮の戸籍は発行されているし、懲役召喚魔法師への攻撃は懲役召喚魔法師使役法第一章第十二項で禁止されているし、万が一攻撃を受けて命の危機を感じた場合は第五章三項に基づいて反撃は許されている。監督役の許可も必要なく――」
「う……!?」
もしかして、フィリックスだけではなくシドまでその懲役召喚魔法師使役法とやらを暗記しているのだろうか?
さすがだなぁ、と眺めているとサタラの標的が涼に向けられた。
「そもそも! なんだこの女は! 部外者を連れてくるな!」
「騎士サタラ、彼女は――」
「きゃ……!?」
「がうううう!」
「ぽん、ぽこぽーん!」
「いてぇ!」
リグではなく、涼に手を伸ばした。
だからおあげが殴り、おかきが威嚇する。
叩かれた手を覆うサタラは、忌々しそうに涼を睨みつけて剣まで抜こうとした。
「三回までは見逃す」
「っ!?」
「今ので一回目だ。俺は弱いやつを相手にする時は三回までは見逃すが、三回目以降はねぇぞ」
「な……なっ……」
涼の前に出て、サタラとの間に割って入るシド。
その背中は――いつも涼が危険になると守ってくれる背中。
胸がぎゅうと苦しくなる。
「く、くそ! 覚えていろよ!」
「セリフが雑魚すぎる」
「はぁ……。大丈夫か、リョウちゃん」
「は、はい」
これからこの男と一つ屋根の下、と思うともう色々いっぱいいっぱいになりそうだ。
(絶対口を滑らせそう……)
気をつけなければ、と思い頬を両手で包む。
きっと無駄になるだろうけれど――。
シド 召喚警騎士団エンディング