流星群の落下地点で〜集団転移で私だけ魔力なし判定だったから一般人として生活しようと思っているんですが、もしかして下剋上担当でしたか?〜

開戦

 
「リョウ!」
「うわぁ!」
 
 突然戻ってきたリグに手を掴まれる。
 どうしたの、と聞く間もなく抱き締められた。
 そのまま額をコツンと当てられて、理解した。
 
「……なっ、まず――!」
 
 落ちてくる。
 ものすごい勢いで『竜の巣』が、お化け屋敷(ここ)に。
 
「すまない、魔力を――」
「使って!」
 
 せっかく回復した魔力だがその1%程度を使ってお化け屋敷の周りに結界を張る。
 リグの知識で組み立てた魔法陣が、お化け屋敷を囲んで上昇していく。
 数秒後には激突するなんて考えもしていない人々を守るには、この事実に気がついているリグと(リョウ)がなんとかするしかない。
 リグの魔力は送還魔法の時に大量に使うから、(リョウ)の魔力で結界を張り強化していく。
 
「っ、来る。リョウ、衝撃に備えて」
「はいっ」
「コンコーンっ」
「ぽぽーっこっ」
 
 両脇からしがみついてくるおあげとおかき。
 次の瞬間、未だかつて感じたことのない衝撃で体が浮遊した。
 リグに抱き締めてもらっていなければ、自分の体がバラバラになったのではないかと思うほどの凄まじい衝撃。
 前後左右も上下もわからない。
 それが収まった頃、ゆっくりと目を開ける。
 
「リ、リグ……大丈夫……?」
「大丈夫……君は?」
「大丈夫だと思う……けど……」
「――ああ、やられた」
 
 お互いの無事を確認した。
 だが、状況はおそらく最悪。
 窓の外が無数の飛竜に囲まれ、結界の外から炎や氷で攻撃されている。
 下の階から悲鳴が聞こえ始めた。
 みんな状況を理解し始めたのだ。
 
「リグ! 無事か!」
「リョウちゃん、リグ! 大丈夫!?」
「シド」
「シド……フィリックスさん……!」
 
 そしていち早く駆けつけて来てくれたのはシドとフィリックス。
 その後ろからノインと(ジン)も顔を覗かせた。
 
「二人が結界を張ってくれたの? あ、ありがとう……って、いうか、どうしたんだ、これ!」
「竜の巣を落として来やがった。大きさでいえば竜の巣の方がデカい。完全に覆われた」
「っ……!」
 
 フィリックスがリグと(リョウ)を抱えて起こしてくれる。
 完全に腰が抜けていた。リグも。
 こんな大きな音と衝撃は初めてだから怖かった、とまだ少し震えるリグをベッドに座らせて背中を撫でる。
 (リョウ)も腰が間抜けでいたので、リグの隣に座らせてもらってほっと息を吐き出す。
 
「リグが先に気づいて結界を構築してくれたんです。私は魔力を……」
「チッ……! 魔力は足りそうなのか?」
「はい、おあげとおかきの小領域内で回復するので、プラマイゼロって感じだから……」
「逆に言うとリョウちゃんは小領域内から出られなくなったってことか」
 
 この小領域から出れば、回復量よりも消費量が上回る。
 フィリックスの言う通り、(リョウ)の魔力の回復ができなくなった、ということだ。
 
「リグ、このままドラゴンが増えたら結界はどうなる?」
「強化するしかない。反射型にしたから、魔力を最低限のものにしたがこれ以上数が増えると重ねがけしなければ危険だ。僕の魔力も使って少し強いものを作るか?」
「いや、お前はお化け屋敷の強化を行え。リョウ、お前はリグと結界強化を。二人ともここを守ることに専念しろ。小僧、剣聖と英雄どもを玄関に呼び出して揃ったら山頂を目指せ。猿騎士、屋敷の警護は召喚警騎士どもを働かせろ。竜の巣の長のシルフドラゴンは山頂の巣にいる。俺は先行して戦力を削る」
「待て! 一人で行くつもりか!?」
「無理はしない。だが取り巻き三人は殺せれば殺しておく。山頂からでも狙撃されれば厄介だからな」
 
 マントを翻して部屋から出ていくシドを、フィリックスが叫ぶように追いかけようとするが間に合わない。
 くそ、と悪態をついてから部屋に戻る。
 髪を掻き上げて振り返った。
 
「提灯お化け、レイオンさんとアスカ様とミセラ様とアラベル様を玄関に呼んでくれ。ノインも玄関に。ジンくんはこのまま部屋の中のリグとリョウちゃんを守ってくれ。貴族たちが押し寄せてくるかもしれない。自由騎士団(フリーナイツ)の権限が必要だ。外のドラゴンはおれと召喚警騎士と警騎士で迎撃する!」
「わ、わかりました、けど……大丈夫なんですか? シドさん、本当に一人で行っちゃいましたけど……!?」
「悔しいが先行してもらえるのはありがたい。こんなドラゴンだらけの中で進めるのはシドだけだ。でも、アイツ自分が狙われている自覚なさすぎだろ……!」
 
 ハッとする。
 そうだ、ハロルド・エルセイドの目的の一つには、シドの持つエルセイド家の家契召喚(かけいしょうかん)契約魔石。
 簡単に奪えるものではないが、単独行動されれば敵に機会を与えることにもなりかねない。
 明らかに不安そうになったリグと(リョウ)に、フィリックスが床に膝をついて言い聞かせるように「外はおれたちがなんとかする。どうか二人は避難している人たちを守ってほしい」と懇願する。
 その言葉で、(リョウ)は思い出した。
 お化け屋敷の中にいるのは厄介な貴族たちだけではない。
 なんの罪もない王都に住む平民たちも、ここに避難しているのだ。
 王都であんな地獄を味わって、命からがら逃げて来て、今度はドラゴンに襲われるなんて――。
 
「……守ります。必ず」
 
 そうだ。自分のやるべきことを履き違えてはいけない。
 
(私のお腹の中の、まったく無関係な三千人分の人たちも王都の平民の人たちも――守るんだ)
 
 たとえ直接側で戦えなくても、ここで守る戦いをする。
 それが(リョウ)にとってなさねばならない戦いだ。
 フィリックスが目を細めて微笑む。
 
「きみたちがここを守ってくれるのなら、後ろを気にする必要はなくなる。ありがとう! 行ってくるね」
「は、はい! 行ってらっしゃい!」
「ジンくん、リョウちゃんとリグを頼んだ!」
「ボクも行くよ。ジンくん、よろしくね!」
「うん! 二人とも、気をつけて!」
 
 本当なら(ジン)とスターダストスクリームドラゴンも共に行きたかったはずだ。
 ハロルドを止めるために。
 けれど今は二人を守ることこそがなすべきこと。
 フィリックスとノインを見送った(ジン)が振り返る。
 
「部屋はオレが守ります」
「わかった。リョウ、結界の強化をしよう」
「うん」
 
 リグと額を合わせる。
 結界に新たな項目が追加され、強化されていく。
 魔力はわずかに使用量が増えた、と思ったが、リグが【無銘(むめい)聖杖(せいじょう)】を収納宝具から取り出す。
 不思議な感覚だ。
 
「なにかしたの?」
「結界への攻撃を魔力に変換するよう追加の魔法を入れた。これでかなり魔力量を抑えられるし、攻撃されればされるだけ君の魔力が回復する」
「て、天才……」
 
 思わず呟いてしまった。
 さすがはリグである。
 
「――――」
「? リグ? どうしたの?」
「いや……さすがに厳しいかな、と思った」
「なにか思いついたけど難しそうってことかな?」
 
 なんとなく思っていたけれど、考えてみてちょっとアレだったのだろう。
 リグはこう、自分の思考の中で完結する自己完結型なところがある。
 それから再び【無銘(むめい)聖杖(せいじょう)】を用いてお化け屋敷の契約魔石に魔力を流し込む。
 外壁と柵が地面から生えてきた。
 
「すごい……こんなこともできるんだ……」
「魔力を流せば比較的なんでもできる。防御に特化した形にした。外壁と柵の中に入ったドラゴンには、強化したお化け屋敷の妖たちが対応する」
「これでこの場所は――」
 
 大丈夫、と言おうとした時、結界にものすごい衝撃音。
 まるでダツのような鼻先が剣のように尖ったドラゴンが、結界に張りついてきた。
 
「「な、なにあれーーー!?」」
「ダーツドラゴン。中位の凶暴なドラゴンだ。まずい、物理攻撃でしかも貫通型だ。リョウ、すまない。結界に自動再生機能も追加したい」
「は、はい」
 
 なるほど、こうして必要に応じて結界の機能を増やしていくのか。
 確かにそれならリグと(リョウ)はこの屋敷の中から動けない。
 この屋敷の中にいる人たちを守るために、繰り返し結界の対応能力を上げていくのだ。
 新たに結界を自動再生にして、今度はダーツドラゴンが爪でこじ開けようとしてくる。
 
「か、賢い!」
「ドラゴンは知性が高い」
 
 このままではなにかしらの方法で突破されてしまうのでは――と思った時だ。
 ダーツドラゴンをキィルーを憑依させたフィリックスが殴り飛ばす。
 
「だが……僕たちは不安に思うことはないのだろう」
「っ! うん……そうだね」
 
 結界はフィリックスたちが守ってくれる。
 集まって結界に攻撃してきたドラゴンたちは、迎撃に出た召喚警騎士たちによって追い払われていく。
 大丈夫、(リョウ)とリグだけで戦っているわけではないのだ。
 
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