隣の席の坂本くんが今日も私を笑わせてくる。

 「……別に、嫌だったとは言ってません」
 「えっ、なんて?」

 顔を上げた坂本くんが首を傾げます。

 「……なんでもありません。いい加減そのふざけた被り物を取ったらどうですか。日直の仕事、ちゃんとやってもらいますから」
 「ご、ごめんて。ちゃんとやるから怒らんで」
 「別に怒ってないです」

 坂本くんがいそいそと被り物を取ります。
 ようやくいつも通りの坂本くんが現れました。

 ヘニャヘニャになってしまった抜け殻を見て、私はふと疑問に思い、問いかけました。

 「でも、いいんですか?」
 「なにが?」
 「それ。最後にん、が付きますが」

 坂本くんはパチパチと丸くして、私と顔を見合わせた後、今度は手に持った“ライオン“の被り物に視線を移しました。

 「……あ、あああ!? ほんまやん!? あかん、全然気ぃつけんかった……んついてるやん……」
 
 坂本侑。
 5月中旬、私の隣の席にやってきた転校生。 

 平穏な高校生活を脅かす宇宙人だと思っていたけれど、蓋を開けてみれば、彼は、私とは全く真逆の──

 「……ふふ。へんなひと」
 
 「──」
 「……坂本くん?」
 
 なんの返答もなく固まる彼が心配になって、顔を覗き込むと、大声で起こされた猫のように飛び上がって、大きく上半身を逸らしました。まるで私から逃げるように。
 
 瞳の奥がぐらりぐらりと震え、動揺しているのが手に取るようにわかります。
  
 「顔がすごく赤いですけど、大丈夫ですか?」
 「……へっ?」

 間抜けた声が、教室に響き渡りました。

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