隣の席の坂本くんが今日も私を笑わせてくる。
転校してきてから3日目。
隣の席の彼女が笑うところを、未だに見たことがない。
高校1年の5月中旬という微妙な時期に転校してきた俺よりも、彼女──倉橋さんは、クラスでは浮いた存在だった。
クラスの誰かと仲良く話していることろを見たことがない。
暇さえあれば、読書か勉強。
フラッとどこかに行くこともあるけど、他クラスに友達がいるんやろうか。
近寄りがたい雰囲気が全身からあふれ出しているけど、話しかければ案外返答を返してくれる。
ちょっと迷惑そうに。
基本が無表情なため、俺が唯一知る彼女の表情差分だ。
こんなこと言うたら一生話してくれなくなりそうやけど、倉橋さんは猫みたいやと思う。
普段は警戒心バリバリで指一本触らせてもらえんけど、ごくたまーにだけ撫でるのを許可してくれる野良猫っぽい。
けど、その日は少し違った。