隣の席の坂本くんが今日も私を笑わせてくる。
「……」
「倉橋さん、おはよう」
いつもなら一応、はい、とかおはようございます、とか返してくれる倉橋さんが、何か言いたげにじっとこちらを見ていた。
人に興味がない彼女が反応してくれたことが、ちょっと嬉しい。
その視線が自分ではなく、自分の手元──両手に抱きかかえた袋でなければ、もっと嬉しいんやけども。
「あ、これ? 倉橋さんもいる? 何味すき? いっぱいあるで。小倉マーガリンと~、イチゴジャムと~、」
「絶食中なのでいりません」
「昨日購買でメロンパン買うてなかった?」
「……」
あ、黙った。
倉橋さんは図星を付かれるとなんも聞こえません、みたいな顔をする。無表情やからそう見えてるだけかもしれんけど。
菓子パンがぱんぱんに詰まった袋を机に置いて座ると、珍しく倉橋さんから質問が投げられた。
「……パン好きなんですか?」
「断然ご飯派やね! 白米をおかずに白米3杯は食べれるで」
倉橋さんの視線が菓子パンに移る。
「あ、これな。パンについてるシール集めると、景品貰えるキャンペーンあるん、知らん?」
「……パン祭りですか?」
「そうそれ。毎年シールコツコツ集めて、皿と交換してんねん。転校で色々バタバタしとって、そのことすっかり忘れてな〜。半分くらいシール集めて諦めるん、なんか悔しいやん? せやから、昨日ありったけ買い占めてきた。見て、これ全部賞味期限明後日やで。やばない?」
「期限は」
「ん?」
「交換期限は、いつまでですか」
「来週の土曜までやね〜、なんとか集めきれるとええんやけど」
「……そうですか」
そこで倉橋さんとの会話が切れた。
菓子パンの匂いを嗅ぎつけた友人がぞろぞろ集まりはじめたからだ。
友人達と会話をしながらちらりと横目で確認したけど、倉橋さんの興味は小説に向いてしまったみたいだった。
……うーん。やっぱ猫っぽい。