隣の席の坂本くんが今日も私を笑わせてくる。
「おはよー、坂本……って、どうした、その顔?」
朝8時20分。
下駄箱の前で、ばったり早川と鉢合わせた。
ぎょっと目を張る早川のそれは、まるで妖怪でも見たような顔だ。
誓ってやましいことなんて何もないけれど、今朝見た夢の話を早川にするのはよくない気がする。
軽く笑ってそれっぽいこと言ってみる。
「……やー、寝不足でな」
「寝不足ね~」
「そうやねん、はは」
「倉橋さんの夢でも見た?」
「……、ゼンゼンミテヘンケド」
「ふう~~ん」
口に手を当てて、目を細める早川。
「……なんやねん」
「いえいえ、なんでも」
「だからなんやねん」
「坂本、今日はきっといい日になるよ」
「なんなんそれ。ハム太郎?」
今にもスキップしだすんじゃないかってくらい上機嫌になった早川が、鼻歌交じりに颯爽と去っていった。
だからほんとになんやねん。
取り残された俺も早川の後を追う。
……教室行ったら、倉橋さんおるんよな。
ふと、夢であった倉橋さんの姿が思い浮かんで、思わず左右に頭を振る。
も~~~、何思い出してんねん、俺は!
そもそも倉橋さんはあんなこと言わんし!
滅多に笑わんし! てか、まだ2回しか見たことないし!
あんなん倉橋さんじゃない。
俺の作り出した幻想やねんから──
「おはよう、坂本くん」
ばさっと、滑り落ちた鞄が床に落ちる音がした。
訂正。
あの夢で見た、花が綻ぶような笑みを浮かべた倉橋さんが、そこには、いた。