コワモテ御曹司のごほうびは私!?どうやらスパダリを手に入れてしまったようです
 結局、部屋のことも聞けず、呼び方のことも聞けないまま、夏目の運転する車で出社。
 昨日と同じように次から次へと仕事をしているうちに、あっという間に定時の17時半になってしまった。

「今日は9時45分出社でしたので、18時45分まで働いてもらってもいいですか?」
 時差出勤ということで、と夏目に微笑まれた美沙は「はい」と返事をするしかなかった。
 荷物が西郷CEOのマンションにあるからだ。
 私一人では行くことができないし、入ることもできない。
 それに、なにより自分のマンションに帰りたくない。

「とりあえずコーヒーを淹れましょう」
 豆を挽くところから!
 美沙は夏目に教わりながらコーヒーと格闘した。

「……冷めているな」
「すみません」
 下手ですみません、不慣れですみません。
 コーヒーミルも初めて、ドリップも初めてです!
 普段コーヒーはインスタントですから!
 少し薄いとダメ出しされた美沙は「精進します」と項垂れた。

 パリとのオンラインミーティングを西郷が終えたのは18時30分。
 サラッと何かをメモした西郷はおもむろに立ち上がり、夏目にメモを渡す。
 すぐに何件か電話をした夏目は手で丸を作って西郷に合図した。

「行くぞ」
 帰るぞってこと?
 時計は18時45分。業務終了の時間だ。

 統括室の鍵を閉め、エレベーターで地下の車へ。
 会社の外に翔太の姿が見えた美沙は息が止まるかと思った。
 もし今日も普通に帰っていたら……?

「……ストーカーだな」
 西郷の呆れた声に美沙の肩がビクッと揺れる。
 その姿を見た西郷は「心配するな」と不敵に笑いながら長い足を組んだ。

「……ここって?」
 西郷CEOのマンションに向かっているのだと思っていた美沙は、到着した場所に戸惑った。
< 15 / 49 >

この作品をシェア

pagetop