屈辱なほどに 〜憎き男に一途に愛を注がれる夜〜
やさしい男
時刻は朝の8時。

わたしは、お店のシャッターを開けた。


「いらっしゃいませ〜!『キッチンひだまり』開店です!」


* * *


『キッチンひだまり』は、美風(みかぜ)商店街の中にある小さな弁当屋。

わたし、藤崎心晴(ふじさきこはる)は、お母さんといっしょにこの弁当屋を営んでいる。


料理好きのお父さんとお母さんが、わたしが生まれる前に2人で始めた『キッチンひだまり』。

自宅兼店舗で、わたしは生まれた頃からキッチンひだまりといっしょだった。


長年地元の人々に愛され、支えられてここまでやってきた。

雑誌やテレビ取材なんかも何度かあって、こじんまりとしたお店だけど、そこそこ繁盛していた。


しかし、そのような話ももうずいぶんと前のこと。

ここ10年で、美風商店街はすっかり殺風景となってしまっていた。
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