屈辱なほどに 〜憎き男に一途に愛を注がれる夜〜
「あの、これをお願いします」


その声にはっとして顔を上げると、スーツの男の人がお弁当をレジに置いていた。

ウチの一番人気の唐揚げ弁当だ。


「…は、はい!458円になります」

「それじゃあ、これで」


スーツの男の人は千円札を差し出した。


「ありがとうございます。それでは、542円のお返しに――」

「釣りは結構」


そう言って、買ったお弁当の袋を手に持つスーツの男の人。


「…えっ、ですが…!」

「ダメになってしまった酢豚。それで支払いお願いします」


スーツの男の人は、本当にお釣りを受け取らないで颯爽とお店から出ていった。


目鼻立ちがはっきりとした整った横顔。

流れるような黒髪の前髪をかき上げながら、足早に去っていく姿がお店の窓ガラス越しに見えた。


「さっきの人、対応がすげースマートだったな。男のオレでもかっけって思うくらい」
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