屈辱なほどに 〜憎き男に一途に愛を注がれる夜〜

「こんにちは。お母様はいらっしゃいますか？」

「母ならいません。お引き取りください」

「そうですか。では、また明日伺います」

「…鳥飼さん、何度こられても同じことです。ウチはここを立ち退くつもりは一切ありませんからっ」

「そう、おっしゃらず〜。決して悪い話ではないので」

「とにかく…！お引き取りくださいっ！」


鳥飼さんは、まったく懲りていないような営業スマイルを崩さない。


「そういえば先日、八百屋さんに引き続き、角のパン屋さんも立ち退きに同意していただけましたよ？」

「…えっ!?」


鳥飼さんが帰ったあと、わたしは貴斗といっしょに慌てて角のパン屋さんへと向かった。


ここの店主は５０代手前の女の人。

跡取りがいなくて閉店せざるを得ない八百屋のおっちゃんのところと違って、まだまだやっていけると思っていたのに――。