屈辱なほどに 〜憎き男に一途に愛を注がれる夜〜
またあるときは、ただただお弁当を買いにきてくれたり。


以前までとの対応が違うから、…なんだか調子が狂う。


今日は閉店間際にやってきた阿久津さん。


「残念ながら、阿久津さんのお好きなかき揚げ天ぷらは先程売り切れましたよ」

「いえ、今日は買いにきたわけではなく。お話があって参りました」


その言葉に、わたしはごくりとつばを飲む。

最近ずっと忙しかったのと、阿久津さんもお弁当を買って帰るだけだったから忘れていたけど、この人は敵だったのだと思い出した。


「立ち退きの件でしたら無意味ですよ。わたしは――」


と言いかけたとき、ふっと一瞬目の前が真っ白になった。

そのまま、足の力が抜けて――。


「…っ…、危ない」


そんな声が聞こえてゆっくりとまぶたを開けると、なぜかわたしの目の前には阿久津さんの顔。
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