屈辱なほどに 〜憎き男に一途に愛を注がれる夜〜

とてもじゃないが、すぐに理解できる内容ではなかった。


――だって。


『キッチンひだまり』以外のすべての店舗が、立ち退きに合意しただなんて。



その夜、貴斗を呼び出した。

…未だに信じられなくて。


「べつに…隠そうと思ってたわけじゃないんだ。折を見て、話すつもりではいて…」


そう言って、貴斗は気まずそうにうつむく。


貴斗が立ち退きに合意した一番の理由は、阿久津さんによって吊り上げられた立ち退き料だった。


高卒で岡田精肉店を継ぐことになった貴斗だけど、実はずっと心の奥底では音楽を仕事にしていきたいと考えていたらしい。


たしかに、高校のときはバンドを組んでいた。

そのバンド仲間から最近また誘われ、音楽の夢への期待に揺れ動いたのだそう。


そこへ、阿久津さんからの吊り上がった立ち退き料を提示され、音楽の学校に入るには十分な金額だった。