屈辱なほどに 〜憎き男に一途に愛を注がれる夜〜
「そうだけど、こ…心晴と結婚するなら、そっちの道は諦められる…からっ」


…えっと。

わたしと貴斗は付き合ったことはないし、そういう感じになったこともない。


なのに、結婚…?


――あっ、そっか!


「なんかごめんね、貴斗っ。気を遣わせちゃったね」

「え…?」

「わたしを励まそうとしてくれてるんだよね?ありがとう。落ち込むなんて、らしくないよねっ」


突然、ウチ以外立ち退きに合意したと聞かされて冷静さを失っていた。

それに気づいた貴斗が、わたしを勇気づけるためにそんな冗談を。


老舗の『岡田精肉店』がなくなるのは悲しいけど、貴斗たちが決めたことならわたしがとやかく言うわけにはいかない。


こうして、またひとつお店にシャッターが下ろされた。


リーチがかかったとでも思ったのだろうか。
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