屈辱なほどに 〜憎き男に一途に愛を注がれる夜〜
そこから阿久津さんは頻繁にくるように。


きっと改めて阿久津さんの話を聞かされたら、その巧みな話術でみんなみたいについつい立ち退きの契約書に判を押してしまうかもしれないから――。

わたしは絶対に話は聞かない。


貴斗のお店『岡田精肉店』は先週閉店し、ウチと同じで自宅兼店舗だったため、少し前に駅近のマンションに引っ越した。


美風商店街で開いているのは、『キッチンひだまり』だけ。

そのため、さらに客足が遠のいてしまっていた。


それでもわたしは、毎日お弁当を作り続ける。

『キッチンひだまり』とこの美風商店街を守りたいから。


――それなのに。

まさか、こんなことになるなんて。



その日は、一段と肌寒い夜だった。


夜遅くまで仕込みもして、やっと今布団に入ったところ。

だから、すぐに睡魔に襲われた。
< 32 / 88 >

この作品をシェア

pagetop