屈辱なほどに 〜憎き男に一途に愛を注がれる夜〜
心地よい夢。

――と同時に、なぜか焦げ臭い匂いもする。


なにかがおかしいと思ってはっとして目を覚ますと、部屋の中がむせ返すような煙に覆われていた。


「…火事!?」


着の身着のまま外へと飛び出した。

そうしたら、ウチの隣の空き店舗から火が上がっていた。


慌てて出てきたものだから、スマホを持っていなくて消防に連絡できず…。

そうこうしているうちに、キッチンひだまりにまで火が燃え移ってきた。


「やめて…!!」


わたしはとっさにお店の中に飛び込むと、レジ付近に置いていた消火器を手に取った。


「お願い、消えて…!お店だけはっ…!」


わたしの目に涙が浮かぶ。


お父さんとお母さんが始めた『キッチンひだまり』。


亡くなってもなお、お父さんとの思い出が残るこのお店。
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