屈辱なほどに 〜憎き男に一途に愛を注がれる夜〜
その瞬間、地響きが伴いお店の2階部分が崩壊した。


わたしは地べたに這いつくばりながら、この27年住み続けてきた家が炎に包まれ朽ちる様をただ呆然と見つめることしかできなかった。


「…おいっ、…おいっ!」


その声に我に返って見上げると、そこにいたのは顔や服が(すす)まみれの阿久津さんだった。


「あ…、阿久津…さん?」

「大丈夫か!?ケガは!?」

「…だ、大丈夫です。…たぶん」


どうして阿久津さんがここにいるのかはわからない。


だけど、炎に包まれたお店の中で聞こえた『…危ないっ!』という叫び声は、阿久津さんの声だ。

それに、お店のガラス戸の破片が散らばっていることからすると、阿久津さんがわたしを抱えてあそこを突き破って外へと救出してくれたようだ。


阿久津さんが助けてくれなかったら、今頃わたしは――。
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