屈辱なほどに 〜憎き男に一途に愛を注がれる夜〜
つかめない男
あれは、1週間前のこと。

美風商店街で火事があり、わたしの自宅兼店舗が全焼。


出火場所は、『キッチンひだまり』の隣の空き店舗。

出火原因は、警察や消防で未だ調査中。


幸い、商店街にはわたし以外だれもいなかったため、人的被害は出なかった。

だけど、わたしは大事な家とお店を失くした。


着の身着のまま出てきたため、本当になにも持っていなくて。

そのあとに様々な手続きを手伝ってくれたのは、なんと阿久津さんだった。


阿久津さんはあの夜、遅くまで接待に付き合わされていてタクシーでの帰宅途中、美風商店街から煙が上がっているのに気づき駆けつけたようだ。


そして『キッチンひだまり』が燃えているとわかり、中に人がいないか探しに入ったところ、消火器を持ったわたしを見つけて――。

それで天井が落ちてくる寸前で、わたしを助け出したということだ。
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