屈辱なほどに 〜憎き男に一途に愛を注がれる夜〜
でも、ウチには全面リニューアルできる資金はないし、カフェに改装なんて話は夢のまた夢。



「ねぇ、心晴」


お母さんに呼ばれて、はっとして我に返る。


「お母さん、今から両替しに銀行に行こうと思ってるんだけど、お店空けても大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ」

「ありがとう。お昼までには戻るようにするから」

「わかった」


わたしの返事を聞くと、お母さんは出ていった。 


お店の壁にかかっているアナログ時計は、10時50分を指そうとしている。

ピークは会社のお昼休みにあたる12時だから、この時間帯はガラガラだった。


「よう、心晴!」


後ろから声がして振り返ると、そこにいたのは幼なじみの貴斗(たかと)だった。

貴斗はこの商店街にある『岡田(おかだ)精肉店』の3代目跡取り。
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