屈辱なほどに 〜憎き男に一途に愛を注がれる夜〜
「俺は料理はできないから食事はすべて外で済ませるようにしているが、たまに食べたくなるんだよな。こういう手料理が」


そう言って、チラリもわたしに視線を向ける阿久津さん。

そのまなざしが、…なぜか色っぽい。


その理由は、ローストビーフに合うと言って、阿久津さんが飲み始めた赤ワインのせいなのかもしれない。


「もしかして、酔ってますか?」

「これくらいでは酔わない」


たしかに顔色は普段と変わりないし、酔っているふうには見えない。

だからこそ、敵に褒められたりなんかしたら…調子が狂う。


阿久津さんとは、絶対に馴れ合ってはいけないのに。


というのも、商店街の火事は阿久津さんの企みではないだろうかと疑っていた。


阿久津さんにとって、唯一最後まで立ち退きに反対していたウチはすぐにでも排除したかったことだろう。
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