女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。



……あれ、そういえばこの手いつまで繋いでるんだろう。


もう立ち止まっているのだからはぐれることはない。

だけど、私から振りほどいても嫌な感じするかな。


じゃあもういいや、繋いだままで。




「暑い屋外から見上げる花火というのも、こんなに綺麗なんだな」


「ほとんどの人はこうやって見ますからね」




貴方は涼しいホテルラウンジでまっすぐ目線の高さの花火を見るのが当たり前だったのかもしれませんが。


だけど、花火ってこんなに綺麗だったっけと驚いたのは私も同じ。

ずっとこのまま花火が上がり続けてくれたらいいのに。自然とそんな風に思ってしまう。


……まあ、そんな願いは叶うわけもなく。

やがてクライマックスのスターマインが始まる。




「川咲」




激しい音の合間を縫って、加賀見先輩の声が耳に届いた。


今いいところなのにいったい何だ。

上がり続ける花火からなるべく目を離したくない私は、視線を固定したままほんの少しだけ顔を先輩の方に向ける。



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